学会長挨拶

このたび、農業施設学会の会長を拝命し、身に余る光栄とともに、その責任の重さを深く感じております。まずは、創設以来50余年にわたり、本会の発展に尽力されてきた歴代会長の皆様を始め、学会活動を支えてくださった多くの会員の皆様に心からの敬意と感謝を申し上げます。
本学会は1970年に「農業施設研究会」として設立され、農業生産・流通に関わる施設・設備・システムの学術的機能化・体系化を目指し、実学として社会に貢献してきました。園芸施設や畜産施設の構造設計、環境制御、流通施設の効率化など、現場課題に直結する研究成果を積み重ねてきたことは本学会の大きな特徴であり、農業生産の基盤を支える学術的・技術的支柱であると自負しております。
現在、農業を取り巻く環境は大きな転換期を迎えており、気候変動による極端気象の頻度・強度の増加やカーボンニュートラルの要請、フードロス削減、フードセキュリティ確保など本学会が主役となり解決すべき喫緊の課題が山積しております。本学会は、これらの課題に対応するため、Green & Sustainable Agricultureをキーワードに、スマート農業やDX技術などを利活用し、総合的な取り組みによって持続可能な農業施設システムの構築を目指すものです。例えば、再生可能エネルギーの導入や省エネ型施設設計、循環型資源利用など、カーボンニュートラルを目指す研究を積極的に進めるとともに、園芸施設の耐候性強化や畜産施設の臭気対策、スマート農業による環境制御、フードロス削減に資する流通システムの改善など、現場課題解決に直結する研究を積極的に進め、持続可能な農業の実現に貢献する責務があると考えています。
学会の事業面では、学会の顔となるオープンアクセス学会誌『農業施設』によって、最新の研究成果や技術情報を広く社会に届けるとともに、本学会が参画するAsian Agricultural and Biological Engineering Association(AABEA)刊行の国際誌『Engineering in Agriculture, Environment and Food(EAEF)』を通じたアジア地域との連携強化によって研究成果の発信力をさらに高め、国内外におけるプレゼンスを向上させることが必要です。両誌はCCライセンス(CC BY 4.0)としてコンテンツを公開しており、会員・非会員ともに多大なるメリットがあります。今後は、査読の迅速化や特集号の企画などによって投稿促進を図ることが重要であり、気候変動適応技術、食品ロス削減に寄与する流通システム、環境負荷低減型畜産施設など、社会的要請に応える研究テーマを積極的に取り上げることも必要です。
喫緊の課題は会員増です。現在、我が国の学会のほとんどが会員減の状況にあり、会員増が達成されているのは大規模工学会や医学・医療関連系、情報・デジタル系などのごく限られた学会のみです。このため、事務作業のスマート化などが喫緊の課題であり、外部委託による負担軽減を進めている学会もあります。今後、学生やシニア世代が大きな負担なく学会活動に参加できる柔軟な会員制度について継続審議し、農業施設学会発のより良い制度デザインをお示しできればと考えます。従来のプラットホームとしての役割とのバランスを取りながら、よりカジュアルな研究交流や意見交換の場の提供や、若手研究者・学生と協賛会員とのマッチング、現場に近いサイドからの参画、シニア世代の知見に頼る「頭脳バンク」構想など多様な可能性を探ることができるはずです。
教育面では、1994年に農業施設学に焦点を絞った書籍『新農業施設学』、本会40周年記念事業の一環として2012年に『よくわかる農業施設用語解説集』が出版されています。特に後者は、第一章に農業経営のコンテンツを含むなど、より現場主義的な分析を含む点が特筆に値するところです。すでに長い年月を経ているため、様々なアップデートが求められています。前会長である小川幸春先生からも検討の要請をいただいているところであり、学術的・技術的デジタルコンテンツの提供も学会の使命だと受け止めているところです。
本学会は、これまで年次大会やシンポジウム、学生・若手研究発表会などを通じて、研究者・技術者・企業・現場を結ぶハブとして機能してきました。今後も、様々な学会との連携を強化し、農業施設学の価値を国内外に発信していきます。
農業の現場や企業、教育研究機関の皆様、そして次世代を担う若手研究者・学生さん、シニア世代の積極的な参画を心よりお願い申し上げます。ともに、持続可能な農業施設学の未来を切り拓き、持続可能な社会の実現に貢献していきましょう。
2025年12月 農業施設学会会長 田中 史彦

