学会長挨拶
この度2021(令和3)年9月より会長を仰せつかりました。私が修士学生時代に最初に学会発表を行い、最初に論文掲載された学会が農業施設学会であったこと、そしてこの論文投稿時に閲読者指摘から多くのことを学んだことを今でも印象深く記憶しており、それがその後の研究生活に大きな影響を与えました。今回の会長就任はこれまでの蓄積を本学会への恩返しの機会であると捉えており、微力ながら学会会員の皆様のご期待に沿うよう努めて参りますので、ご協力をお願い致します。農業施設学会の大きな特長は、若手研究者が非常に元気な学会と言うことです。私が所属している学会の中でも役員の皆さんの年齢が非常に若いことにも起因していると考えています。動きが迅速で柔軟な対応力など、かつてのアジアの新興国に見られたようなエネルギーに満ち溢れた“活力”を感じており、これは他学会では味わうことが出来ない魅力です。さらに、この活力を加速させているのが「学生・若手研究発表会」です。当学会が2008年度に「若手の会」を発足させたことが、現在の「学生・若手研究発表会」へつながっており、発足させた当時の役員そしてこの活動を支えて来た担当者にはあらためて敬意を表する次第です。
このような若手の集まりは、自由な意見交換を可能にするネットワークを広げることになり、研究活動をする上で貴重な人脈を得ることにもなります。また“しっかり議論する”と言うことも学会では重要になります。去る9月に開催された学会50周年記念事業(オンライン)において学会長、副会長と若手研究者との対談会があり、「学会長などに私達の発表を聞いて議論して欲しい」と言う意見を頂きました。学会での発表は、一般に短時間の形式的な議論が多く、私のような年輩者が忘れかけていることを思い出させてもらいました。研究の議論は、老若問わず対等であり、時には批判的な尖った議論や評価も入り混じることも必要であり、それによって発表者のやる気を鼓舞するような建設的な議論が欲しいと常々思っています。議論を楽しみ、大いにディスカッションしたいものです。この学会で発表すると、「厳しい意見もあるが、いつも実りある議論が出来るし、よい意見がもらえる」と言う評価が確立すると、学会に参加することの「価値」が見出せて、発表数の増加、そして会員増にも貢献すると思います。より実りあるディスカッションが出来るような方策を考えて行きたいと思いますが、まずは多くの研究者の方々が議論へ参加することから始められればと思います。
参考までに他学会のことですが、農業食料工学会(旧農業機械学会)には自由集会という企画がありました。これは全国から集まっているにもかかわらず、わずか「発表12分+質問3分」と言う形式的な口頭発表のみでは十分な議論がなされず、消化不良のまま終わってよいのかと言う問いが根底にあり、20数年以上前に企画されたものです。夕方5時以降に開催されており、多い時は6セッションほどの自由集会が開催されたこともありましたが、やがてオーガナイズドセッション(OS)との差別化が困難になり、開催されることが少なくなりました。消化不良に終わらない議論が出来るプラットフォームとして充分価値のあった取り組みだと考えています。
学会誌のあり方についても述べたいと思います。研究者の業績評価は年を追うごとに厳しくなっている印象があります。日本国内の研究者だけでなく、国内大学の留学生にとってもインパクトファクター(IF)付き論文誌に掲載されることが、母国へ帰国後のアカデミックポジション獲得の必要条件になっています。IFの数値は高くなくても構いませんが、これがなくては近い将来だれも投稿しなくなる可能性が高いのです。農業施設学会論文もこの要件を備えてみてはどうでしょうか。
最後に、当学会は魅力に溢れている組織だと考えています。先ずは、その特長を大いに伸ばし、多くの人にその魅力を知って頂けるような基礎づくりを行いたいと思います。そのためにも皆様のご協力をお願いしたいと思いますので、何卒よろしくお願い致します。
2021年9月 農業施設学会会長 岩渕 和則