バックナンバー要旨

55巻1号(2024.03)

  • 技術論文
  • トウモロコシ乾燥を中心とした移動式汎用穀物乾燥機の基本性能の把握
  • 金井源太・篠遠善哉・竹倉憲弘・山下善道

 近年,トウモロコシの子実を乾燥できる国産汎用循環式乾燥機が市販された一方で,高温高速乾燥が可能である海外製の移動式乾燥機も一部で利用されている。国内ではデータ蓄積の少ないトウモロコシ対応乾燥機の利用,開発,改良の参考とするべく,移動式乾燥機でのトウモロコシ,イネ,コムギの乾燥試験を行い,以下の知見を得た。なお,本報告では,通風温度の測定が1~2点と限られた点数による結果に基づく考察となっている。トウモロコシ乾燥時の比エネルギ消費量(熱源のみ)は,通風温度75~80 ℃以上で,張込量が十分で吹き抜けが発生していない2回の試行では,それぞれ3.5 MJ/kg,4.7 MJ/kgであった。国産循環式乾燥機での試行5.5~6.0 MJ/kgに比較して低い傾向を示した。品質は,通常国内で飼料として用られることの多いUSグレードNo.3相当の基準を満たしていた。イネ乾燥時の比エネルギ消費量(熱源のみ)は,通風温度は65~70 ℃以上の2回の試行で,それぞれ4.2 MJ/kg,4.5 MJ/kgであった。既報の通風温度70 ℃での4.08 MJ/kgと同等であった。乾減率は3.5 %/h以上と高く,全胴割率は19.4 %と57.3 %であり,胴割が品質指標ではない飼料用米に適用できると考えられた。コムギ乾燥時の, 比エネルギ消費量(熱源のみ)は,通風温度79 ℃で5.8 MJ/kgであった。張込量が少なく吹き抜けが発生したため,十分な張込量では消費熱量はさらに低くなると考えられる。デンプン品質の指標であるフォーリングナンバーは377で,目安とされる300以上を示しており,デンプン品質に劣化は認められなかった。

キーワード:高温乾燥,移動式乾燥機,トウモロコシ,イネ,コムギ

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55巻2号(2024.06)

  • 研究論文
  • 超音波プローブを用いた豚舎内の気温分布測定
  • 藤田侑希・海老原格・若槻尚斗・水谷孝一・中久保亮・石田三佳・西島也寸彦

 温度ストレスに弱い豚の生産性を最大限に追求するためには,温度ムラの大きな豚舎内の気温分布を日々監視し,制御することが不可欠である。我々は,先行研究で,大規模空間の気温分布測定に適した超音波プローブに着目し,豚舎内における実運用に適した設計を検討してきた。前記超音波プローブは,汎用的なシングルボードコンピュータの信号入出力インタフェースを活用することで,簡便に構築可能でありながら,音波の伝搬経路上の気温の分布平均を精密に測定可能であることから,設置場所が制限される豚舎内での運用に適していると考えられる。しかし,豚舎内における伝搬経路上の気温の分布平均および伝搬経路で囲まれた平面上の気温分布の測定の実証には至っていない。そこで,本稿では,前記豚舎内の気温の分布平均および気温分布の測定実験を行い,測定精度を評価した。実験の結果,前記超音波プローブは,6.83 m の経路上の気温の分布平均を誤差0.55 ℃で,気温分布(6 面上の気温)を誤差0.73 ℃で測定できることが明らかになり,豚舎内の気温を監視・制御するのに,十分な測定精度を有する可能性が明らかになった。この結果から,前記超音波プローブを用いて豚舎内の気温を管理することで,健康な豚の効率的な肥育と,飼育者の労働負荷低減に貢献することが期待できる。

キーワード:豚舎,超音波プローブ,気温分布計測,シングルボードコンピュータ

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55巻3号(2024.09)

  • 研究論文
  • 国内外の営農型太陽光発電に関連した研究開発動向: 文献データベース調査
  • 土屋遼太・大橋雄太・森山英樹・石井雅久

  営農型太陽光発電は農地の上部に太陽光パネルを設置することで,ひとつの土地から農産物と電力を同時に得るシステムで ある。本システムは日本を含め,世界的に拡大し実用されている。しかし,農業と発電の最適なバランスを実現する技術は完 全には体系化されていない。そこで,本研究では営農型太陽光発電に関して,日本及び世界における当該技術の状況と,研究 実施状況を明らかにするため,文献調査を行った。文献調査の結果,国内外ともに本分野の研究が活発化したのは 2020 年以降 と最近のことであった。国内で発表された論文に関しては 2022 年までに発表されたものは 31 件と限られていた。また,発表 されている内容としては,発電技術をテーマとしたものが栽培技術をテーマとしたものより多く,国内で発表された論文にお いては社会科学系の研究が最も多かった。営農型太陽光発電は農業生産と太陽光発電を同時に行うという土地利用形態である。 農業生産の側面から見ると本来,農地で得られる日射量の一部が太陽光発電に利用されている。日射は作物生育において重要 な要素であるため,農地元来の食料生産という目的に与える営農型太陽光発電による負の影響を可能な限り軽減する作物栽培 技術の体系化に資する研究が必要である。

キーワード:再生可能エネルギー,太陽光発電,耕地,土地利用,作物生産,文献調査

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55巻4号(2024.12)

  • ノート
  • ウェアラブルデバイスによる作業支援ツール 『営農スマートガイド』の開発
  • 山屋裕紀・近藤拓也・吉峰拓海・島田晧平・宮内俊輔・越智高志・兼崎雅弘

 施設園芸の大規模化・法人化に伴い,営農企業が消費側企業と信頼関係を構築することは,個人営農が主体だった頃と比べ て一層重要になってきている。信頼関係の構築のためには「作物品質の安定」と「正確な生産見込情報の提供」が重要である。 これらを実現するための先行研究は複数存在するが,その研究成果を栽培施設に導入するには大規模なシステムや作業者が専 門的知識を持っていることが必要となる傾向にあり,既存の栽培施設に導入するのは困難な場合がある。 そこで本稿では,既存の栽培施設に容易に導入することが可能な,施設園芸の農場経営者および現場作業者を支援するシス テム『営農スマートガイド』を提案する。開発した『営農スマートガイド』は画像取得用のスマートグラスと演算用のデバイ スから成るシステムで,「推論システム」,「果実計数プログラム」,「収量予測プログラム」の機能を備えている。推論システム では収集した画像情報と深層学習に基づき,果実ごとの熟度や収穫適否を使用者に提示する。果実計数プログラムではテンプ レートマッチングに基づき同一の果実を重複して計数することを防ぎ,圃場内の作物の個数を正確に計数することが可能であ る。収量予測プログラムは説明変数を「熟度別の果実数」,「熟度別の果実数の割合」,「圃場に設置された温度センサ情報に基 づき算出した積算日平均気温」および「圃場に設置された照度センサ情報に基づき算出した積算日平均日射量」とし,Elastic Net に基づき,1 週間後の果実収穫数を予測することができる。このように『営農スマートガイド』は,推論システムの利用に よる作業者間の作業ばらつき低減によって,作物品質の安定を実現する。また,果実計数プログラムと収量予測プログラムを 使用することで正確な生産見込情報を提供する。 『営農スマートガイド』の評価に当たり本研究では,演算用のデバイスとして高性能エッジコンピュータ,クラウド,モバイ ルデバイスに着目し,それぞれのデバイスからなるシステム構成の応答速度を測定し,現場での実用可能性を考察した。高性 能エッジコンピュータ推論では 5.9 s,クラウド推論では 1.6 s,モバイルデバイス推論では 1.1 s の応答速度が得られ,特にク ラウド推論およびモバイルデバイス推論が実用に耐えうるものであると結論付けた。また,果実計数については平均絶対誤差 率が 13.5%の精度で計数でき,収量予測については 1 週間後の収量を誤差 20% 以内で予測できる可能性があることを示した。

キーワード:施設園芸,スマートグラス,果実計数,収量予測,深層学習

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