バックナンバー要旨

51巻1号(2020.03)

  • 研究論文
  • 地ビール醸造家を対象としたホップ香気の評価指標に関する研究
  • 田村匡嗣,駒田華奈,井上大悟,齋藤高弘

 本研究の目的は,官能評価されたホップ香気を可視化するための指標の確立とした栃木県の地ビール醸造家5名によるホップ7品種の香気の官能評価を実施するとともに,表示方法を検討した.ホップ8品種の香りは,元来の香り(OA)およびドライホッピングを模擬した抽出した香り(EA)としてそれぞれ調製した.栃木県の地ビール醸造家9名の官能評価によって,OAおよびEAを用いてビール醸造過程を模擬したホップ香気の指標を検証した.これらの結果について,2016年10月(n=79)および2017年1月(n=27)に全国の地ビール醸造家を対象としたアンケート調査を実施した.その結果,醸造家にとってホップは,ビールの香り付けとして重要度が高いこと,購入時における香りの情報が少ないことなどが明らかとなった.さらに視覚的なホップ香気の指標は,有効回答件数(n=79)の89%の醸造家から望まれた.そこで,ホップ香気および醸造過程のホップの香気を示す5つの官能評価用語(フルーティ,フローラル,ハーバル,スパイシー,シトラス)からなる6段階尺度のレーダーチャートに,文章説明を加えたパッケージ例を提案した.

キーワード:地ビール,ホップ,香り,官能評価,アンケート調査

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  • 研究論文
  • 秋・春季のトマト栽培におけるヒートポンプを用いた夜間除湿による病害抑制
  • 後藤文之・寺添 斉・四方田 淳・守谷栄樹・庄子和博

 春季および秋季のトマト栽培では,夜間にハウス内の相対湿度が上昇するために,葉かび病などの発生が危惧される。ヒートポンプは暖房だけではなく冷房,除湿,送風と多機能を備えている。このヒートポンプを用いた除湿の効果を検討するために,2台のヒートポンプを設置した温室(試験区)と灯油暖房機を設置した温室(対照区)を用いてトマトを栽培し,病害の発生,植物の生育,環境制御に使用されたエネルギー消費量の比較試験を秋季と春季の2回行った。除湿には暖房用と冷房用のヒートポンプを2台使い,夜間に30分,4回の間欠運転を行った。その結果,ヒートポンプによる除湿を行った温室では,病害の発生はほとんど見られなかったが,対照区の温室では病害が発生した。果実の重量,開花数,糖度には両者に有意差は認められなかった。春季の栽培期間中の対照区と試験区のエネルギー消費量は,それぞれ,10817 MJ,4618 MJであった。試験区のエネルギー消費量の約27 %が除湿に使われていた。以上のことから,秋季および春季のトマト栽培におけるヒートポンプの間欠運転による除湿は,栽培温室の相対湿度の低減効果が大きく,病害の抑制に有効と考えられた。

キーワード:除湿,温室,ヒートポンプ,かび病,トマト

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  • 技術論文
  • 蓄冷材を用いた青果物の保冷における温湿度変化と鮮度保持効果
  • 源川拓磨・Pankaj kumar GARG・Tofael AHAMED・野口良造

 融点を0~5 °Cのチルド帯に設定可能な蓄冷材を用いた青果物の保冷法の性能について明らかにした。フィルム包装したコマツナのベビーリーフおよびイチゴ果実を蓄冷材と伴に保冷ボックスに入れて貯蔵し,保冷ボックス内の温度と相対湿度および貯蔵前後の青果物の品質を測定した。その結果,保冷ボックス内を低温かつ高湿度な環境に数日間保つことが可能であり,ON/OFF制御や除霜運転を伴う冷凍機を用いた冷却に比べて温湿度の変動が小さいことが示された。また,貯蔵の前後で青果物の品質に変化はなく,蓄冷材を用いた保冷法は冷凍機を用いた場合と同様に高い鮮度保持効果を有することが確かめられた。これらの結果から,蓄冷材を用いた保冷法が青果物輸出におけるコールドチェーンの切れ目を補う有効な手段であることが示された。

キーワード:蓄冷材,青果物,保冷,コールドチェーン,鮮度保持,輸出

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51巻2号(2020.07)

  • 研究論文
  • 大規模温室の温熱空気環境をモニタリングするためのワイヤレス・センサ・ネットワークの開発と評価
  • 後藤文之・伊藤憲彦・庄子和博

 日本の温室やハウスでは,石油暖房機等の温風を利用した暖房が一般的である。温風暖房は,温湯暖房と比べて温室内の温度むらが発生しやすいため,エネルギーの無駄や不均一な作物の生育が生じると考えられる。しかしながら,温風によって発生する温度むらの程度や発生メカニズムの詳細はよくわかっていない。それらを明らかにするためには,温室内の多地点の温度を同時に長期間計測可能なワイヤレス・センサ・ネットワーク(WSN)の利用が適している。本研究では,温室内の通信環境や電源の供給を考慮して,温室内温度分布を多点で長期間かつ同時に計測するセンサノードを開発するとともに,商業栽培用温室においてWSNの評価を行った。通信には,データ送信に制約が少ない2.4 GHz帯を使用する無線方式のうち,通信制御時と通信時の消費電力が小さいTWELITEを採用した。電源部は太陽電池とコンデンサを使用することによって,電池交換を不要にした。開発したWSNは野外測定において100 mの通信距離を十分に確保できることが分かった。太陽電池は温室内においても十分に発電しており,少なくとも半年以上は,正常にセンサノードから電波を発信できる状態であった。また,70個のセンサノードを0.5 haのトマト栽培温室に設置することにより,室温の経時を詳細に捉えることができたことから,WSNが有効に機能することが示された。

キーワード:ワイヤレス・センサ・ネットワーク,温室,温熱環境,トマト,温度,太陽電池

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  • 技術論文
  • 堆肥化とメタン発酵の複合処理を想定した半固形状乳牛ふん尿の固液分離による堆肥化
  • 古橋賢一・田中章浩・黒田和孝・福重直輝

 筆者らは,ルーズバーン式牛舎から排出されるオガクズを含んだ半固形状乳牛ふん尿について,堆肥化とメタン発酵を組み合わせた複合処理の適用を検討している。本報ではその一環として,半固形状ふん尿を固液分離して固形分を回収し,実際に堆肥化を行って堆肥化特性と臭気発生を評価した。半固形状ふん尿を固形分離した固形分は,かさ密度は減少するが,易分解性有機物が搾汁液側に移動するため,難分解性有機物の含有率が増加した。この固液分離後の固形分についてパイロットスケール堆肥化装置(容積1.8 m3)を用いて堆肥化試験を行い,堆肥化特性および臭気発生を調べた。固液分離後の固形分を堆肥化した区(固液分離区)では,同量のふん尿をオガクズで水分調整した材料を堆肥化した区(オガクズ混合区)と比較して同程度の発酵温度,有機物分解率が得られ,難分解性有機物の分解率はオガクズ混合区よりも高かった。一方,固液分離区ではオガクズ混合区と比較して,堆肥化期間中のアンモニア揮散量が55 %低減し,臭気指数相当値と通気量の積で表した臭気指数排出強度は堆肥化1週目で44.9 %,2週目で37.2 %低減した。

キーワード:乳牛ふん尿,堆肥化,固液分離,メタン発酵,バイオマス,臭気低減

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51巻3号(2020.10)

  • 研究論文
  • 園芸施設内におけるタバココナジラミ類の微小発生音の収録
  • 佐藤広隆・中林大樹・海老原格・水谷孝一・若槻尚斗・久保田健嗣

 タバココナジラミ類は,トマトやキュウリ等の施設野菜に甚大な被害をもたらす農業害虫であり,農薬耐性の異なる複数のバイオタイプが確認されている。我々の研究グループでは,タバココナジラミ類の発する音が,バイオタイプ毎に異なることに着目し,音情報を用いてバイオタイプを判別する手法を確立してきた。一方,農業現場において,タバココナジラミ類のバイオタイプを音情報から判別する作業を可能にするためには,園芸施設において,低コストで発生音を計測できる仕組みが不可欠である。そこで,本研究は,園芸施設における環境騒音の特徴を明らかにすると共に,そのような環境において,低コストな構成で,タバココナジラミ類の発する音を計測できる微小発生音収録装置の実現可能性を検討する。さらに,園芸施設における検証実験を行い,構築したプロトタイプは,低コストな構成ながら,タバココナジラミ類の発する音を計測できる可能性を有していることを確認した。

キーワード:タバココナジラミ類,信号処理,発生音,園芸施設

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  • 研究論文
  • カラーピーマンの夏秋作型における遮光資材の展張期間と遮光率が障害果の発生と収量に及ぼす影響
  • 古野伸典・藤島弘行

 夏秋作型でカラーピーマンを栽培する生産者を対象に,遮光資材の展張期間と障害果の発生等についてアンケート調査を行った。遮光資材の展張は5月下旬から始まり,10月上旬までは90%以上の生産者が展張を継続していた。それ以降は徐々に低下したが,遮光を実施している生産者の割合が低下するにつれて,日焼け果が発生したと回答した生産者が増加した。  従来通り10月上旬に遮光資材を撤去する区と,栽培終了時である12月下旬まで遮光資材の展張を継続した区を比較した。その結果,遮光を継続してもハウス内平均気温の低下は0.8 ℃にとどまり,着色遅れなどの症状も確認されなかった。また,遮光を継続することで,ひび割れ果(ラスセッティング)の発生が抑えられ,商品収量が増加した。  展張する遮光資材の遮光率を検討した。その結果,慣行の遮光率50%の遮光資材よりも30%の遮光資材を展張することで着果数が多くなり,商品収量も増加した。  以上の結果から,夏秋作型のカラーピーマン栽培では,遮光率30%の資材を梅雨明け時期から収穫終了時まで継続して展張することが望ましいと考えられた。

キーワード:着果,カラーピーマン,アンケート調査,ラスセッティング,日焼け

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  • ノート
  • 薪ボイラー熱源穀物乾燥機でのバイオマス燃料利用―籾殻固形燃料,木炭,ナタネ搾油残渣を用いた検討―
  • 金井源太・ 山下善道

 本報告では,薪ボイラー熱源穀物乾燥機を用いて,籾殻固形燃料,木炭,ナタネ搾油残渣について,燃焼特性を調査し,穀物乾燥用の燃料としての利用可能性を検討し,以下の知見を得た。  籾殻固形燃料は,薪ボイラーへの燃料追加投入,炉内強制空気供給を行うことで,熱出力,燃料からの熱変換の効率について,乾燥熱源として問題なかった。また,実際に水稲乾燥での利用が可能であった。しかし,合計120.9 kgの燃料投入後,灰の炉内への蓄積により,燃料の追加投入が困難となり,目的とする仕上水分まで乾燥作業を行えなかった。穀物乾燥などの連続運転の場合には,灰分が少ない燃料との併用や灰の炉内からの取り出し,炉の容量が大きな薪ボイラーの導入など,炉内が灰で満量とならないよう留意が必要である。 木炭は30㎏の炉内への初期投入量で有効運転時間が7時間以上であり,燃料の追加投入なしに乾燥作業を行える可能性も示唆された。燃料量については初期投入量が多い方が効率が高く,薪と同様に強制空気供給なしに燃焼可能であった。 ナタネ搾油残渣は,炉内への強制空気供給なしには燃焼が困難であったが,炉内強制空気供給を行うことで,乾燥機の熱源として十分な熱出力を示した。

キーワード:薪ボイラー,循環式乾燥機,籾殻,木炭,搾油残渣

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51巻4号(2020.12)

  • 研究論文
  • 加熱調理された食肉の電気インピーダンス特性と調理損失および破断特性との関係
  • 小林彰人・水谷孝一・若槻尚斗・前田祐佳・海老原格・安藤泰雅

 本研究は食肉の電気インピーダンス特性と調理損失および破断特性との関係を明らかにすることで加熱工程の食肉の品質評価方法を確立することを目的としている。はじめに実験として,豚ひれ肉を間欠加熱し,加熱直後の試料の電気インピーダンスと調理損失を計測した。しかし,2者の間に直接的な相関関係は確認できなかった。次に,試料を加熱後,冷却した試料の電気インピーダンス(100 kHz~1 MHz)は調理損失,変形率が50 %となる荷重,破断変形率との間に相関が見られた(f=250 kHzの電気インピーダンスと各物性の相関係数は,調理損失0.913,50 %荷重0.860,破断変形率-0.790であった)。また,加熱された試料の電気インピーダンス,電気インピーダンス計測時の試料温度,加熱前の生試料の電気インピーダンスの3変数より算出した電気インピーダンスZCLは調理損失と高い相関関係(相関係数0.851,サンプル数40)が確認できた。本研究により加熱工程で計測される豚ひれ肉の電気インピーダンスと中心温度から調理損失,破断特性を推定できることが示された。

キーワード:電気インピーダンス,豚ひれ肉,加熱調理,真空調理,破断特性,調理損失

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