バックナンバー要旨
50巻1号(2019.03)
本研究の目的は、冬季の乳牛に温水を給与することで、飲水や乳生産に及ぼす影響を調査することである。フリーストール方式で24頭のホルスタイン種乳牛に対して、クロスオーバー法により、35 ℃程度の温水を給与した温水区、および対照区として無加温で10 ℃以下の水を給与した冷水区で試験をおこない、温水給与の効果を検証した。その結果、冬季の温水給与により、飲水量が9.9 %増加(p<0.01)、乳量が3.8 %増加し(p<0.01)、飼料摂取量及び乳成分に差がなかった。また、冷水区は、温水区に比べて、飲水回数が2.1倍多く、飲水時間が2.4倍長かった(p<0.01)。以上より、温水給与により、飼料摂取量が増えることなく、短時間に少ない飲水回数で飲水量が増えるとともに、乳量も増加することが示された。
キーワード:冬季、乳牛、温水給与、飲水量、乳量
本報では、筆者らが前報(2016)において提案した「翼型断面を有する鉄骨ハウス」(頂部高さ5.7 m、軒高それぞれ3.5 m、2.0 m、間口20 m、奥行60 m)を対象とし、側壁面に意図的に開口(隙間)を設けることで内圧を制御し、曲げモーメント(ここでは、柱・梁フレームの肩部および頂部に着目)の低減効果について検討を行った。まず、風洞実験により、想定した開口位置における多点外圧の時刻歴を測定し、内圧をシミュレーションで計算した。次に、シミュレーションで得られた内圧の時刻歴と風洞実験で得られた外圧の時刻歴を組み合わせてフレームに作用する風力の時刻歴を求め、二次元フレーム解析を用いフレーム部材に作用する応力を算定した。様々な側面開口幅、フレーム位置、風向に対するシミュレーション結果に基づき、各パラメータが内圧並びにフレームに作用する曲げモーメントに及ぼす影響を系統的に把握するとともに、曲げモーメント低減の観点より、両側面における最適な開口幅の組合せを示した。具体的には、実寸大で軒高の高い方の開口幅を30 mm、低い方の開口幅を40 mmとすることで、フレームに作用する最大曲げモーメントを閉鎖型に対し約20 %低減できることが示された。
キーワード:鉄骨ハウス、翼型断面、風洞実験、内圧シミュレーション、荷重効果、風荷重低減
近年、日本で増加しているフリーバーン牛舎からは、オガクズを比較的多く含む半固形状のふん尿が排出される。そのふん尿は堆肥化するには含水率が高く、さらに副資材を添加する等で水分調整を行う必要がある。また、湿式メタン発酵で処理するには、ポンプ搬送できない、発酵槽内でオガクズが沈殿する等の問題を解決する必要がある。そこで本研究では、半固形状のふん尿を対象とした湿式メタン発酵の前処理として、固形分は副資材の添加なしで堆肥化すると共に、液分は有機物濃度を向上させて効率的に発酵を行うための、スクリュープレス機による固液分離プロセスの導入を検討した。過剰な消化液発生を防ぐと共にポンプ搬送を可能にするため、ふん尿はメタン発酵消化液で予め懸濁させた。懸濁液の含水率上昇もしくは背圧の上昇に伴い、固形分含水率は低下し、堆肥化可能な含水率73.0 %以下まで容易に低下した。オガクズは固形分に大部分回収され、乾物分離効率は半固形状で79.3 %、スラリー状排せつ物で58.5 %となった。また、高EC溶液である消化液にふん尿を懸濁しても、固形分の電気伝導度は、30 %低下した。液分に関しては、固液分離後にVS当たりの易分解性有機物の割合が40 %から79 %に増大すると共に、得られた液分にふん尿を再懸濁させて分離する工程を3回繰り返すことで、易分解性有機物濃度は2倍以上となることが明らかとなった。
キーワード:固液分離、スクリュープレス、乳牛ふん尿、メタン発酵、堆肥化、バイオマス
50巻2号(2019.06)
乳牛ふん尿のメタン発酵消化液の固液分離固分(以下:分離固分)を原料とした敷料は、ふん尿由来であるため乳房炎発症の危惧といった衛生面の課題がある。本研究では、分離固分を敷料利用している酪農場において、敷料調製過程の分離固分と敷料利用時の衛生状態を、大腸菌を指標に調査した。
分離固分は、2日分堆積し、これを2日ごとに移動・再堆積(切り返し)し計4回切り返した後、敷料として利用された。2日ごとの切り返しにより分離固分の温度は夏期45~80 ℃、冬期40~70 ℃で推移し、年間を通して4回目の切り返し前までに55 ℃以上を延べ100 h以上持続した。分離固分の大腸菌数は、分離直後の102~103 CFU/g-wetから牛床投入前には試料の9割以上が検出限界以下まで減少した。以上から、分離固分の好気性発酵は大腸菌除去に有効であった。
敷料の大腸菌数は牛床投入前の検出限界以下から投入後2~3 hで102~104 CFU/g-wetまで急増し、投入後22~23 hでは104~105 CFU/g-wetとなった。また、調査開始時に除去しなかったブリスケット部材前に堆積した未利用敷料の大腸菌数は投入後約12 hで103~104 CFU/g-wetまで増加した。以上から、短期間の発酵処理をした分離固分敷料の大腸菌に対する増殖抑制効果は確認されなかった。
敷料利用時の牛舎内平均気温と新しい敷料が投入される前の敷料平均大腸菌数の関係は、牛舎内平均気温1.6~23.7 ℃の範囲で高い正の相関があり(r=0.918)、22.7 ℃以上では大腸菌性乳房炎が発生するとされる106 CFU/g-wet以上になると推定された。
分離固分敷料には、①投入時の水分が約78 %と高い、このことにより、②水分が高いほど大腸菌数が少ない傾向がある、③牛舎内気温が低いと水分が高く大腸菌数が少ない、④牛舎内気温が高いと水分が低く大腸菌数は多い傾向がある、という特徴が明らかとなった。
キーワード:乳牛ふん尿、メタン発酵消化液、分離固分、敷料、乳房炎、大腸菌、牛舎内平均気温、水分
本研究は、養豚農家の密閉縦型堆肥化装置を対象に、発生する排気中のアンモニア(NH3)を回収装置によって除去したときの、通年のNH3回収能力および回収後のNH3を含む溶液(回収液)の利用について検討することを目的とした。福島県の養豚農家(S農場;母豚200頭規模)の密閉縦型堆肥化装置にリン酸溶液を充填した容積600 LのNH3回収装置を接続し、2017年11月、2018年1月、4月および7月の4期間において10日間の連続稼働実験を実施した。その結果、回収装置前後で排気中のNH3濃度は1833~3222 ppmから117~149 ppmに低減し、平均のNH3除去率は94.7 %であった。回収液は、窒素が6.08~6.60 %、リン酸が18.6~20.5 %含まれた。回収液の交換ごとに150 kg程度のリン酸を用いて、約30 kgの窒素が回収された。気温の高い夏季には窒素と結露水からなる回収時の液増加分が少なく、条件によっては高濃度になる可能性が示唆された。また、肥料取締法における液状複合肥料としてみなした場合の有害成分はいずれも検出されず、幼植物の生育についても対照肥料と同等の効果が示された。そのため、回収液については単独での肥料利用もしくは混合堆肥複合肥料の原料として利用可能であることが示された。
キーワード:密閉縦型堆肥化装置、排気、アンモニア回収、粉じん、回収液、肥料利用
2018年9月4日に四国および近畿地方を縦断した平成30年台風第21号によって、農業用ハウスは200億円以上の被害を受けた。平地および中山間地に建設されたパイプハウスの被災実態を把握するために、京都府および岐阜県において、被災したパイプハウスの現地調査を行った。推定したパイプハウスの被災要因は多様であった。風圧力に関しては、パイプハウスの側面に作用する正圧、剥離流による負圧および再付着による正圧、開口部の発生に伴う内圧の変化、高所からの不定常流、地形および構造物に起因する気流の収束および突風が挙げられる。構造上の要因としては、地盤支持力の低下、筋交いの不足、発錆による構造部材の断面欠損、接合部強度の低下があった。その他、飛散物の衝突による破壊がみられた。
キーワード:風圧力、剥離流、再付着、内圧、法面勾配、気流の収束、突風、地盤の飽和、断面欠損、飛散物
50巻3号(2019.09)
イチゴ果実輸出行程の一環として、茨城県内産地から横浜港まで宅配便を用いたトラック輸送を行った。輸送振動を調査した結果、10 Hz近傍にピークを持つPSD(パワースペクトル密度)が得られた。得られたPSDを用いて3次元のランダム振動試験を実施し、多段積載された4種類の包装形態について、外装箱の加速度伝達特性およびイチゴ果実の損傷発生度について評価した。その結果、試験区および積載位置により、可販率(損傷面積5 %以下)が7.7 %~86.7 %と大きく異なった。また、いずれの包装形態でも多段積載の上段において振動強度(オーバーオール加速度、Grms)および損傷発生度が大きかった。これらの結果より、実際の流通環境に合わせた包装設計が必要であること、そしてGrmsが、簡易な損傷予測指標として利用可能であることが示唆された。
キーワード:イチゴ、輸出、トラック輸送、振動、損傷、オーバーオール加速度
ノート
未利用竹材を用いたセルフビルド可能な農業用ハウス構造の開発(第2報)-「みえ森と緑の県民税」による竹林整備事業と連携して開発した改良型バンブーグリーンハウス(BGH)の事例-
- 長野伸悟・小林広英・宮地茉莉
これまで、農業者が自作できる低コストな農業用ハウスの開発を目的に、三重県熊野市において竹を構造部材に活用した小規模な農業用ハウス「バンブーグリーンハウス(BGH)」の開発および普及に取組んできた。前報(長野ら、2017)では、竹を利用することでハウス資材費を低減できることを実証したが、建設作業に長時間を要することが課題であった。また、建設作業とは別に竹材を入手するための作業時間が生じることも課題であった。本報では、これらの課題を解決するため、省力的に建設可能なBGHの構造を検討するとともに、行政が行う竹林整備事業との連携に取組み、過去の事例と構造面、コスト面を比較しつつ総合的にBGHの普及性を考察・評価した。
部材費は、本研究で開発したBGH3号およびBGH4号のいずれにおいても前報におけるBGH2号より安価となり、一般的なパイプハウスの約半分に減じることができた。また、建設時間についてBGH3号は延べ138.4時間、BGH4号は延べ77.2時間とBGH2号の延べ267時間から大幅に低減することができた。竹の乾燥程度や強度のバラツキもあり構造計算による評価は難しいが、観察期間中に大きな損傷は見られなかった。ただし、BGH4号は側面からの風に対し、若干の「揺れ」が観察されている。
以上から、今回試作したBGH3号およびBGH4号は既報のBGH2号より安価かつ簡易に建設できることがわかった。これらは、パイプハウスに比べ安価で小面積のほ場においても自作可能であることから、中山間地に位置する小集落での営農振興に役立つ可能性があると考えられる。また、行政等が行う竹林整備事業と連携することで資材調達コストの低減だけでなく、獣害の低減、里山環境の保全や人工林の保全にも寄与でき、地域社会全体に活力を与えるプロジェクトにもつながる可能性がある。ただし、ハウス全体の強度に関する定量的な評価が困難であったため、施工に際しては可能な限り強度の把握に努め、安全を確保することが必要である。
キーワード:未利用竹材、小規模農業用ハウス、低コスト、行政との連携
地球温暖化は人類の活動に大きな影響を与えており、国際社会全体で対策が行われている。農業生産も排出源の一つであり、農業施設や農業機械の使用時の燃料燃焼による二酸化炭素排出や農耕地や家畜に由来するメタンガス排出など、様々な場面で温室効果ガスが排出されている。日本国全体での温室効果ガス排出の現状を数値的に取りまとめている温室効果ガスインベントリでは、農耕地・家畜からの排出量は農業分野、燃料由来の排出量はエネルギー分野と、それぞれ異なる分野に含まれており、公開されている情報のみでは農業生産からの排出量を総合的に評価することはできない。そこで本稿では、温室効果ガスインベントリやインベントリ作成に使用された調査資料等に基づき農業に関連する排出量を再分析し、農業生産に由来する温室効果ガス排出量の総合的な評価を試みた。その結果、水田由来の温室効果ガス排出量は他の排出源より明らかに大きい一方、農業における燃料由来の排出量は農耕地や家畜と比較しても無視できない割合を占めていることが明らかになった。また、一経営体あたりの総排出量を比較すると、畜産、施設農業、露地農業の順で大きく、エネルギー分野での排出は施設農業が最大であることが明らかになった。
キーワード:温室効果ガス、農業エネルギー利用、インベントリ、統計データ
50巻4号(2019.12)
難防除害虫であるコナジラミ類は,配偶行動時に雌雄が音を用いて交信し,その交信音は種やバイオタイプ毎に異なることが報告されている。コナジラミ類においては,異なる種やバイオタイプ間での交雑はほとんど確認されていないことを鑑みると,音響交信は,その配偶行動に重要な役割を果たしていると考えられる。そこで,本稿では,コナジラミ類の交信音を人工的に抑制する仕組みを構築するとともに,交信音の抑制が配偶行動へ及ぼす影響を検証した。その結果,寒天をコナジラミ類が寄生している葉体に付加することで,コナジラミ類の交信音を効率よく抑制できることを見出した。さらに,寒天を付加した葉体に放飼したコナジラミ類の交尾回数は,寒天を付加していない葉体に放飼した場合と比較して,有意に低下することが明らかになった。従って,コナジラミ類の音響交信は,その配偶行動に重要な役割を果たしていることが明らかになった。
キーワード:コナジラミ類,タバココナジラミ,配偶行動,音響交信
豚インフルインザの初期症状として,豚のくしゃみが増加する。感染豚特有のくしゃみ多数収集は困難であるため,くしゃみ分類器は少数の音響特徴量を利用することが望まれるが,従来法の分類性能はF値60%程度で留まり,異なる環境・音響特徴量との性能比較がされていない。本稿の目的は,収録環境に依存しにくく,少数の音響特徴量を用いる高性能なくしゃみ音分類器の構築である。まず,複数種類の豚インフルエンザ感染時の豚の動画像・音信号を,複数位置で約2週間収録し,音信号から定めた検出基準のもとで音響イベントを74533サンプル自動検出した。音響イベントの一部に対し,動画像を併用しながらラベル割当てを施し,くしゃみ144サンプルを含む音響イベントを収集した。音響イベントから様々な音響特徴量を抽出し,Support Vector Machineに基づく分類器を構築して,分類性能を比較評価した。結果として,Mel Frequency Cepstral Coefficientsおよびスペクトルの立ち上がりの鋭さを表現した特徴量,低周波帯の周波数変動を表現した特徴量を併用した場合,従来法より大幅に高いF値92.8%でくしゃみ分類を可能とした。さらに,学習済分類器を用いることで,3764サンプルのくしゃみ音の検出を可能とした。これらにより,少数の音響特徴量を用いた,収録環境に依存しにくいくしゃみ自動判別器が構築された。
キーワード:豚,音響特徴量,くしゃみ,自動検出,インフルエンザ,Support Vector Machine