バックナンバー要旨
43巻1・2号(2012.06)
バイオガスを利用する際には、経済的で効率良い脱硫が求められる。中でも、消化液中の微生物の働きを利用した生物脱硫が有効であると考えられている。しかし、消化液を利用した脱硫装置における処理能力や設計要点についての詳細な検討はなされていない。本報では、バイオガスの通気負荷試験を行い、模型装置での処理能力を求めるとともに、装置設計仕様を考察することを目的とした。また、模型装置での処理能力を基に実規模装置を作成して全ガス処理を行った。
実験装置には0.24 m3の塩化ビニル製の円筒を用い、内部に接触材を充填した。消化液は装置上部から噴射し、1日1割を新鮮なものと交換して使いまわしによる影響が出ないように考慮した。
目標値の脱硫率85 %で処理を行う場合、模型装置ではバイオガスを約4.0 m3/hまで通気可能であった。面積ガス比を基に実規模装置を4.0 m3で作成して全ガス処理を試みた結果、適切な温度条件で運転を行えば目標値を十分に達成できると考えられた。
キーワード:脱硫、バイオガス、負荷試験、接触材、消化液
ネイハキンカンにおける1番花を利用した生産体系の確立を目的として、圃場要水量の30 %程度の土壌乾燥処理および土壌乾燥処理期間中の乾燥空気処理が樹体の水ストレスの程度および着花数に及ぼす影響を調べた。2006年5月23日から10日間および20日間の土壌乾燥処理を行った場合、1番花の開花数が各々72.0および70.7個で、対照区の6.7個に比べて有意に増加した。一方、乾燥空気の単独処理では1番花数が16.3個で、対照区の2.7個と比べて有意な差はなかったが、土壌乾燥処理と組み合わせた場合には132.7個となり、対照区と比べて有意に増加した。また、1番花と2番花における総開花数は、乾燥空気の単独処理においても113.3個となり、対照区の95.0個に比べて増加する傾向にあった。 以上の結果から、キンカン栽培において土壌乾燥処理と乾燥空気処理を平行して行うことによって、水ストレスの効果が高まり、1番花数を増加させることができた。
キーワード:キンカン、1番花、水ストレス、土壌乾燥、空気乾燥
310頭の三元交雑種の肉豚を用いて、椎骨数の違いによる肉豚の増体量、枝肉成績、肉質成績、体脂肪の脂肪酸組成を比較した。さらに、椎骨数遺伝子型(VRTN)の遺伝子型による分類を行い同様な比較を行った。椎骨数の発生頻度は20型が11%、21型が66%、22型が23%であった。椎骨数22型の枝肉は、20型、21型に比べ、と体長、ロース部が長く、ロース断面積が小さく、ロースおよびバラの比率が高くなっていた。肉質は肉の硬さに違いがみられ、22型が柔らかくなった。増体量は22型が優れる傾向を示した。背脂肪の脂肪酸組成は椎骨数の影響を受けなかった。椎骨数遺伝子型による分類でみると、野生型は椎骨数が20と21個の2タイプがみられ平均椎骨数は20.4個、ヘテロ型は20、21および22個の3タイプがみられ平均椎骨数は21.0個、増大型は21と22個の2タイプがみられ平均椎骨数は21.7個であった。椎骨数の遺伝子型を診断することにより、個体の椎骨数を推定することが可能と考えられた。椎骨数遺伝子型による分類において、枝肉成績、肉質成績、体脂肪の脂肪酸組成は椎骨数の分類と同様な結果が得られた。
キーワード:豚、3元交雑豚、椎骨数、椎骨数遺伝子、枝肉、肉質、脂肪酸組成
432頭の肉豚を用い実施した肉質評価試験の結果を取りまとめ、可消化養分総量(TDN)、粗蛋白質、粗脂肪、可溶無窒素物(NFE)およびアミノ酸摂取量がロース部の筋肉内脂肪含量に及ぼす影響を検討した。試験は生体重約65 kgから出荷(約110 kg)までの肥育期において、1区当り5~6頭の群飼育による82の試験区で行い、増体量、飼料摂取量、各栄養成分摂取量、ロース部の筋肉内脂肪含量、背脂肪厚、肉の硬さ等を調査した。供試飼料は栄養成分および原料が異なる82種類の肉豚肥育期用飼料を使用した。試験の結果、ロース部の筋肉内脂肪含量はリジン、トレオニン、トリプトファン、イソロイシン、バリンの摂取量と有意な相関が認められた。一方、メチオニンとシスチンの合計摂取量とは相関が認められなかった。リジン摂取量が日本飼養標準の養分要求量より少なくなるとロース部の筋肉内脂肪含量が高くなり、多く摂取すると脂肪蓄積が低下した。各アミノ酸の摂取量の中で第1制限アミノ酸であるリジンが最も大きく脂肪蓄積に作用すると推定された。また、リジン摂取量と日増体量は有意な相関が認められた。リジン摂取量が少ない肉豚は多く摂取したものに比べ増体量が約20 %低下した。 筋肉内脂肪含量と剪断力価は有意な相関がみられ、筋肉内脂肪が少ないと肉が硬くなること等が明らかとなった。
キーワード:肉豚、筋肉内脂肪含量、リジン、増体量、剪断力価
化学肥料の代替として堆肥の利活用が奨励されているが、作物収量・品質を保ちながら化学肥料施用量を削減するためには、堆肥由来肥料成分が圃場内に均一に施用されなければならない。本研究では牛ふん麦稈堆肥由来の肥料成分施用量の圃場内における分布を明らかにするために、北海道十勝地域の3軒の耕種農家圃場にてマニュアスプレッダーによる堆肥散布量分布調査を行った。その結果、堆肥現物散布量は、変動係数が57.8~63.9%であり、圃場内にて大きくばらついていることが明らかとなった。また、堆肥由来肥料成分施用量の分布はNで7~21倍、P2O5で7~22倍、K2Oで8~23倍もの違いを示し、堆肥由来肥料成分が圃場内において均一に施用されていない実態が明らかとなった。堆肥由来の各肥料成分施用量の圃場内における変動は堆肥散布量に規定されており、堆肥散布量は堆肥水分率ならびにC/N比といった堆肥の物理化学的性状の不均質性による影響を受けることが示唆された。
キーワード:堆肥散布精度、肥培管理、牛ふん麦稈堆肥、肥料三要素
戻し堆肥の混合が堆肥化初期過程における一酸化二窒素(N2O)の排出に及ぼす影響を明らかにするために、堆肥化試験装置を用いて乳牛ふんおよび馬ふんの堆肥化過程におけるN2O排出速度を検討した。N2O排出速度は、堆肥化開始時前(一次発酵前)に戻し堆肥を堆肥原料に混合することで著しく上昇した。同様に、N2O排出量も顕著に増加し、戻し堆肥の無添加区と比較して乳牛ふん堆肥化では最大26倍、馬ふん堆肥化では885倍にも増加した。戻し堆肥を混合した堆肥材料では、N2Oの発生原因物質である硝酸態窒素(NO3--N)または亜硝酸態窒素(NO2--N)の高い濃度が検出され、このNO3--NまたはNO2--Nの蓄積がN2O排出速度の上昇を引き起こしたと示唆された。
キーワード:堆肥化、戻し堆肥、一酸化二窒素(N2O)排出速度、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素
43巻3号(2012.09)
牛肉、豚肉、鶏肉、および混合挽肉(牛肉と豚肉、豚肉と鶏肉)の化学成分による肉種鑑別について検討した。調査項目は水分、粗脂肪、粗タンパク質、および脂肪酸組成とした。牛肉、豚肉、および鶏肉の部位別における挽肉の一般成分含量は部位による違いが大きく、複数の食肉において重なるため、一般成分含量による肉種の鑑別は困難と考えられた。牛肉、豚肉、および鶏肉の部位別に分析した脂肪酸組成については、リノール酸(C18:2)、ステアリン酸(C18:0)等の脂肪酸において3畜種間で差がみられ、牛肉100%、豚肉100%、および鶏肉100%の肉種の鑑別に活用できると思われた。しかし、牛肉100%と混合挽肉(牛肉80%と豚肉20%)、および豚肉100%と混合挽肉(豚肉80%と鶏肉20%)のC18:2とC18:0の分布が重なるため、これらの成分による肉種との識別は困難であった。そこで、脂肪酸組成等22変量を用いたPLS判別分析(食肉100%スコアを100、および食肉80%のそれを80とする)を行なった。いき値を92に設定すると、牛肉と豚肉の混合挽肉を牛肉100%と、および豚肉と鶏肉の混合挽肉を豚肉100%と誤判定する割合は0(ゼロ)になることが明らかになった。また、牛肉用、および豚肉用PLS判別モデルの構造を明らかにした。
キーワード:牛肉、豚肉、鶏肉、混合挽肉、化学成分、脂肪酸組成、PLS判別分析、肉種鑑別
新鮮なシイタケは、呼吸速度が速く、収穫後の品質低下を起こしやすい。そこで、シイタケの品質保持期間を延長するために有効な包装技術の開発が求められている。本研究では、包装内を酸素100%で置換した高酸素包装(HOP、フィルムの厚さは60µm)、微細孔(直径:234±26µm)を1袋あたり4(P4)、8(P8)、20(P20)個開けたMA包装(PM-MAP、フィルムの厚さは100µm)によりシイタケを包装し、温度10℃、湿度90%条件下で8日間貯蔵し、袋内ガス濃度、表面色(L∗)、硬度、可溶性固形物分量、質量損失および官能評価の変化を測定した。その結果、PM-MAPのP20区は、袋内酸素濃度は高く、貯蔵4日目には大きな品質低下が見られ、十分なMA効果は得られなかった。P4およびP8区は、袋内が低酸素、高二酸化炭素濃度となり、貯蔵4日目までは十分な品質保持効果が見られた。しかし、8日目にはP4区では袋内エタノール濃度が高くなり、P8区では褐変が進み、十分な品質保持効果は得られなかった。一方、HOP区はPM-MAPと比べてL∗値、硬度および官能評価値で有意に差があり、貯蔵8日後まで品質保持が可能であった。
キーワード:シイタケ、MA包装、高酸素包装、品質
米に含まれる脂質は貯蔵過程でリパーゼの作用により容易に分解され脂肪酸を遊離することから、本研究では米の鮮度の指標として脂肪酸度を測定するµTASを試作した。試作したµTASのサイズは11mm×45mmであり、ガラスの基盤上にポリジメチルシロキサンシート(PDMS)を溶着し、同プレートに2つのインジェクションポート、マイクロチャンネル、定容量化セル(液溜め)、およびφ4.0mm反応セル等を形成した。シリンジを経由してマイクロポンプでそれぞれのインジェクションポートに注入された水酸化カリウム溶液と空気はマイクロチャンネルで合流し、容積の異なる複数の液滴を形成する。マイクロチャンネル中の液滴は液溜めに進み、定容量の大液滴が形成される。次いで大液滴は空気プラグの働きにより反応セルに導入され、前処理で米に含まれる脂肪酸を抽出した溶液と混合し、導入された大液滴の量に応じて米サンプルの中に加えたpH指示薬としたフェノールフタレインの変色反応が生じることになる。試作µTASの1回の測定に要する時間は概ね2分間である。
試作µTASの性能を検証するため2005年から2010年にかけて収穫された玄米と精米の脂肪酸度を測定した。またµTASによる測定に合わせて従来の鮮度測定技術である中和滴定法による測定を行い、測定した脂肪酸度の比較検討を行った。その結果、両者の測定値の間には高い相関(R2=0.980~0.984)が認められ、µTASによる米の鮮度測定の可能性が検証された。
キーワード:米の鮮度、滴定、遊離脂肪酸、µTAS、水酸化カリウム溶液プラグ
3種類のヒートポンプ(空気熱源-空気供給方式、水熱源-空気供給方式、水熱源-水供給方式)を利用した温室暖房システムを検討した。具体的には、比較的単純な熱収支モデルを基に計算を行い、日本の4地点において規模の異なる温室を対象として、各暖房システムの発揮性能を調べた。その結果、いずれの暖房システムでも暖房必要熱量を100%ヒートポンプでまかなうには50%をまかなう場合の3~4倍のヒートポンプ能力が必要であるが、必要熱量の90%をまかなうことにすれば約2倍の能力ですむ結果となった。水熱源は空気熱源よりもヒートポンプ能力を約2割小さくでき、さらに水熱源に温水による蓄熱も加えたシステムは空気熱源よりもヒートポンプ能力を4~5割小さくできる結果となった。年間の暖房必要熱量とヒートポンプ供給熱量の差としての燃焼機による補助暖房熱量は、温水による蓄熱も加えたシステムでは大幅に少なくなった。ヒートポンプ能力が同じならば、水熱源に蓄熱を加えたシステムでは蓄熱のないシステムに比べて補助暖房燃料を年間50~70%削減できる。
キーワード:ヒートポンプ、水熱源、空気熱源、温室、暖房必要熱量、蓄熱水槽、熱交換器
43巻4号(2012.12)
積雪寒冷地域におけるハウス栽培において、冬期暖房用燃料の高騰による暖房コストの低減が熱望されている。また、地球温暖化効果ガスとしてCO2排出量の削減が喫緊の課題となっている昨今、化石燃料を使用しないヒートポンプ技術の応用が再注目されている。特に積雪寒冷地域ではデフロストのない水熱源ヒートポンプの応用が期待されている。水熱源ヒートポンプの性能向上は目覚ましいが、熱源のための井戸掘削費用等の負担が課題となり普及に至っていない。そこで積雪寒冷地域の生活基盤として普及している既存消雪設備を利用した水熱源ヒートポンプシステムを構築した。灯油式ボイラによるハウス環境制御と比較し、栽培環境の再現性、暖房コスト、CO2排出量、暖房コストに消雪コストを含めたトータルコストから本研究で構築した水熱源ヒートポンプシステムの導入効果を評価した。その結果、積雪寒冷地域において暖房コストおよびCO2排出量削減に貢献するシステムであることが示された。
キーワード:水熱源ヒートポンプ、消雪パイプ、ハウス暖房、積雪寒冷地域、自然エネルギー
燃油価格の高騰により、寒冷地域の施設園芸においても導入が進んでいるヒートポンプシステムについて、一次側熱源の違いがシステムCOP(Coefficient of Performance、成績係数)などの運転特性に及ぼす影響について検討した。その結果、地中熱源ヒートポンプシステムのシステムCOPは、調査期間を通して概ね3.5から4.0の範囲で推移し、調査期間中の平均は3.89と高かった。一方、地中熱源ヒートポンプシステムの放熱係数から求めた空気熱源ヒートポンプシステムのシステムCOPは、概ね1.8から2.5の範囲で推移し、調査期間中の平均は2.14と低かった。また、地中熱源ヒートポンプシステムのシステムの暖房能力は、空気熱源ヒートポンプシステムに比べて約67%高い結果が得られた。
地中熱源ヒートポンプシステムのコンプレッサーユニットの消費電力は、空気熱源ヒートポンプシステムに比べて30%以上少なかった。また、地中熱源ヒートポンプシステムは、コンプレッサーと送風ファンだけでなく、不凍液の循環ポンプを運転する電力も必要であるが、これらすべての消費電力を積算しても、空気熱源ヒートポンプシステムよりも22%少なかった。
キーワード:成績係数(COP)、寒冷地域、地中熱源、放熱係数、ヒートポンプ
本研究では、高度に除湿された低温空気を穀物の品質保持乾燥に利用することを検討した。主にコンプレッサとペルティエ素子を使った除湿機で構成される小型除湿空気乾燥試験装置の乾燥性能を湿潤な気象条件のもとで大麦と小麦を供試して試験した。乾燥装置の品質保持効果については香り米を供試して試験した。試作乾燥装置によって、既往文献の報告と同程度以下の低温・低湿度の空気が得られた。空気流量が5 L/minのとき、相対湿度74.9%,RHの外気を取り込んで、17.2%,RHまで排出空気の相対湿度を57.7%低減させることができた。取込空気と排出空気の相対湿度の差は空気流量の増加にほぼ比例して減少した。大麦の乾燥実験において、含水率35%,d.b.から15%,d.b.の範囲では、空気流量が5 L/minと20 L/minの両者ともほぼ同様に乾燥が進んだが、15%,d.b.以下になると空気流量20 L/minの場合は大きく乾燥速度が低下した。しかし、今回の実験では除湿空気の流量が乾燥速度に及ぼす影響を明確に示すことはできなかった。香り米の香り成分AcPyの保持効果を乾燥装置の乾燥温度を変えて、比較検討した。その結果、除湿低温乾燥装置によってAcPy成分は初期成分濃度と同程度に保持できることが確認された。
キーワード:除湿空気乾燥機、低温低湿度空気、相対湿度、香り成分、香り米
約10 mm厚に成形したキウイフルーツスライスの真空乾燥特性と乾燥収縮について検討した。真空乾燥は1.33~2.00 kPaの減圧下、30~70℃の5段階の温度条件下において行った。真空乾燥過程における試料収縮(体積変化および表面積変化)について解析し、体積比は含水率の一次関数で、表面積比は含水率の指数関数で、それぞれ近似できることを明らかにした。収縮のデータを基に、キウイフルーツの真空乾燥特性について検討したところ、乾燥過程における含水率変化は、減率乾燥第1段においては指数モデル、減率乾燥第2段においてはPageモデルの適合性が良好であった。
キーワード:真空乾燥、キウイフルーツ、収縮、指数モデル、ページ式、アレニウス式
2012年5月6日に発生した複数の竜巻によって、茨城県および栃木県下のパイプハウスに甚大な被害が生じた。竜巻の進路上にあって、突風によって構造が破壊されたパイプハウスを現地調査し、被災特徴からパイプハウスと風圧力の関係について整理した。パイプハウスは軽量構造物であり、F1クラス以上の竜巻の直撃に対して抵抗する性能を有していない。パイプハウスの被災パターンは、風上側側面の転倒が顕著であった。これは、台風による被災の場合と近似している。パイプハウスは、竜巻の上昇流ではなく、竜巻の到達初期に水平方向の風で被災する可能性が高い。また、被覆材や構造の差異がパイプハウスの被災パターンに及ぼす影響はみられなかった。急激に増加した風速によって、被覆材が破断せずに風圧力を骨組に伝達した。パイプハウスの補強としては、アーチパイプと桁行直管の接合金具の改良や筋交いの増加が挙げられる。
キーワード:パイプハウス、竜巻、被災特徴、被災要因、現地調査