バックナンバー要旨
41巻1号(2010.06)
圃場で生育するテンサイの根中成分を非破壊測定する装置の開発をめざし、その基礎研究として、未加工のテンサイ糖度、および水分を、近赤外分光法を用いて推定する方法を検討した。テンサイの皮のついたままの根部側面で取得した800~1100nmにおける近赤外スペクトルと実測値との間で重回帰分析により検量線を作成し、別個体群による評価を行った。その結果、糖度はSEP=1.11%、水分はSEP=1.40%の精度で推定できた。更なる精度の向上のためには、照光強度の調整や不規則な凹凸をもつテンサイ表面に密着できる照・受光部の開発が必要である。
キーワード:テンサイ、糖度、水分、非破壊、近赤外分光法
豚肉ロース部の熟成にともなう筋原線維の小片化率・剪断力価・伸展率・保水性・pH・肉色等の物理的特性値を経日的に2週間まで測定し、熟成にともなう物理的な肉質の変化を明らかにする研究を行った。
その結果、熟成期間中のpHは5.7前後の値を示し、豚肉品質は一定の鮮度が維持され、品質上は問題がないと考えられた。一方、肉色・脂肪色および肉の色調(L*、b*、a*)は共に熟成8日目までに大きく変化し、その後はほぼ一定の値を示した。肉色はやや淡くなるものの、脂肪色が赤みを帯びる傾向を示した。また、熟成1日目に81.8%であった保水性は、熟成8日目では73.3%まで有意に低下した。さらに、熟成1日目に14.5cm2/gであった伸展率は熟成8日目では11.6[cm2/g]まで低下した。筋原線維の小片化率の増加は剪断力価の減少に対応しており、熟成にともない肉質は軟化することが明らかとなった。
一方、豚肉ロース赤肉部の脂肪交雑の割合は周波数6-13Hzのプローブによる超音波診断により把握することが可能であった。
キーワード:豚肉ロース部、熟成、物理特性、筋原線維小片化率、剪断力価、pH、保水性、伸展率、色調
熟成期間が異なる豚肉ロース部の物理特性の食味への影響を明らかにするために、同肉の食味官能評価を行うとともに、前報で報告した熟成期間中の各物理的特性と合わせて検討し、熟成にともなう豚肉ロース部の食味と物理的特性に関する総合的解析を行った。
熟成にともなう豚肉ロース部の赤肉部分の食味官能評価の結果、軟らかさ・ジューシーさ・旨み・こく・風味および総合の評価値は熟成にともなって向上し、4℃で14日貯蔵した豚肉ロース部が7つの評価項目を総合した評価において相対的に一番食味が高いと評価されるものの、外観品質を含めて総合的に判断すると、豚肉ロース部の熟成期間は8~14日間が望ましいと考えられた。
また、食味官能評価値と物理的特性値との相関分析を行った結果、官能評価項目のジューシーさ・旨み・こく・風味および総合は剪断力価との間に有意な負の相関が認められる一方、筋原線維の小片化率との間にはいずれも0.8以上の正の相関が認められた。
食味官能評価と物理的特性値を変数とした主成分分析を行った結果、第2主成分まで取り上げることにより82.28%の寄与率が得られた。すなわち、豚肉ロース部の食味に関与する因子は第1主成分の軸に集約され、第2主成分は豚肉ロース部の外観品質に関与する因子と考えられた。
キーワード:豚肉ロース部、食味官能評価、物理的特性、主成分分析、相関分析
近年、酪農業において大量に廃棄される傾向にある生乳は乳脂肪などの生物難分解性物質を含むため、従来の生物学的処理の適用は困難である。本研究では廃棄乳の分解処理を目的として、電解酸化法の適用を試みた。処理法確立の基礎とするため、生乳含有中の有機成分の分解特性と、支持電解質や陽極材料に起因する反応機構との関係について検討を行った。Ti/PbO2電極を用いた希釈生乳の電解酸化処理において、電極表面における酸化が効果的であった。
またNaClを添加することによりCOD除去率は増加した。ラクトースは、DSA(Dimensionally stable anode)と比較するとTi/PbO2電極は高い分解速度を示した。カゼインはラクトースと比較すると、電気化学的に難分解性であった。生乳と脱脂乳を比較して乳脂肪の分解特性を検討したところ、電解生成された次亜塩素酸およびTi/PbO2電極表面での酸化反応が効果的であった。実験結果より、Ti/PbO2電極表面での酸化反応が生乳中の有機成分の分解に大きく寄与することが示され、特に良好な乳脂肪の分解性が確認された。以上から、電解酸化法は廃棄乳処理に対して有効な手法であることが示唆された。
キーワード:電解酸化法、廃棄乳、DSA、Ti/PbO2、水処理
コンポストと化学肥料を組み合わせ、タイ国の2種類の土壌で、土壌改良を試みた。コンポストと化学肥料を組み合わせ投与した場合、土壌中の全細菌数、セルロース分解菌数、セルロース分解カビ数、硝化細菌、アゾトバクター、リン可溶性細菌、およびリン可溶性カビの数はコンポスト単独や化学肥料単独の場合より増大した。コンポスト単独およびコンポストと化学肥料混合の肥料を投与した場合は、乾燥砂土壌のpH、有機物、カリウム、カルシウム、硫黄などは著しく増大した。一方、粘土質土壌ではこれら成分はそれほど変化はしなかった。
乾燥砂土壌では、コンポストと化学肥料の投与で、肥料を全く投与しない対照実験と比較して、トウモロコシの収量は208%増大したが、粘土質土壌では162%の増大であった。微生物相の改善がこれらの収量増加にかかわっていることが示唆された。
キーワード:コンポスト、トウモロコシ、乾燥砂土壌、土壌微生物、土壌肥料
41巻2号(2010.09)
太陽光の緑色波長域を変換して赤色波長域を増幅させた波長変換フィルムの特性と耐候性ならびに、そのフィルムと波長変換しない自然光透過フィルム下におけるハクサイとハツカダイコンの生育に及ぼす影響を調査した。
供試した厚さ60µmと100µmの波長変換フィルムの分光透過特性は、緑色波長域は太陽光を1とした場合、0.87、0.74と減少したのに対して、赤色波長域は1.06、1.11と増加した。屋外温室への展張9か月後において変換特性は維持されていた。また、フィルムの耐候性試験から、少なくとも5年以上は耐候性が維持されると考えられた。変換フィルム下のハクサイの地上部生体重は、自然光透過フィルムより供試2品種ともに増加した。ハツカダイコンは変換フィルム100µmで地下部の肥大が有意に促進された。
キーワード:光質、赤色光域、耐候性、波長、波長変換フィルム
本研究では、我が国で一般的な園芸用パイプハウスを対象とし、一連の風洞実験結果に基づき、外装材設計用ピーク外圧係数を提案する。ここに、「外装材」とはパイプハウスの外皮(envelope)を構成する被覆材(フィルム)とその取付金具、抑えひもとその取付金具や定着杭など、風圧を直接受ける部材だけではなく風圧をアーチパイプ等のフレームに伝達する二次部材も含めた総称である。
実験では縮尺率1/40の模型を用い、境界層乱流中で外圧の多点同時測定を行い、外圧の時刻歴データを得た。単体モデルのほか、2ないし3棟が並列して建設される場合についても測定を行った。まず、単体モデルに対して最大・最小ピーク外圧係数分布を求めた。次に、一般的なパイプハウスの構成を想定し、側壁(桁行方向の壁)に作用する面平均外圧や各断面に作用する局所揚力係数のピーク値に基づき、外装材設計用ピーク外圧係数を提案した。さらに、複数棟モデルに対する実験結果を用いて、ピーク外圧係数、側壁に作用する面平均ピーク外圧係数、並びに、局所揚力係数に及ぼすパイプハウス棟数や隣棟間隔の影響を把握した。
キーワード:園芸用パイプハウス、外装材、ピーク外圧係数、風洞実験、複数棟並列配置
二次発酵過程において堆肥の窒素濃度を上昇させるために、吸引通気式堆肥化システムで製造された回収アンモニアの添加方法を検討した。検討した添加方法は、回収アンモニアを実験開始時に一度に多量添加した場合と少量から段階的に添加した場合の2通りであった。その結果、少量から段階的に堆肥へ回収アンモニアを添加した場合、アンモニア態および硝酸態窒素を効率的に堆肥中に蓄積させることが可能であった。この方法では、二次発酵開始時から硝化反応が進行し、硝酸態窒素の最大濃度は約8.3 g・kg-dm-1まで増加した。この硝酸態窒素の蓄積は、堆肥のpH値を6.5~6.6まで低下させた。その結果、アンモニアガスの揮散は低pHにより抑制され、堆肥中へのアンモニア態窒素の固定を可能にした。一方、回収アンモニアを実験開始時に一度に多量添加した場合は、アンモニア態窒素の損失が増大し、回収アンモニアを添加しても安定した状態で窒素肥料成分を固定することが出来なかった。
キーワード:堆肥化、二次発酵、回収アンモニア、アンモニア態窒素、硝酸態窒素、吸引通気
ナタネ、ヒマワリのコンバイン収穫物の回転式粒厚選別機を用いた選別試験を行い、以下の知見を得た。
ナタネ子実より小さな夾雑物除去のために1.2mm縦目篩を用いた場合、夾雑物割合4.2%の収穫物から夾雑物の14%程度を除去でき、子実損失は1.0%以下であった。子実より大きな夾雑物除去のために特注品の2.3mm丸目篩を用いて夾雑物の82.9%を除去できたが、子実損失は17.7%であった。2.3mm縦目篩を用いた場合、子実損失0.0%で夾雑物の53.2%を除去可能であった。
ヒマワリ子実より小さな夾雑物の除去のためには、子実粒厚の変動に合わせて目開き2.0~2.4mmで対応する必要がある。子実より大きな夾雑物除去のために特注品の5.0mm縦目篩を用いて夾雑物割合1.4~2.4%の収穫物中から15.2~50.4%の夾雑物を除去できたが、子実損失が6.6~7.7%であった。
ナタネ・ヒマワリとも回転式粒厚選別機により、夾雑物割合を1%以下にできる場合もあったが、選別前の夾雑物割合の影響を受けるため精選工程は必要であると考えられる。
キーワード:ナタネ、ヒマワリ、粗選、粒厚選別
41巻3号(2010.12)
わが国の青果物輸送のほとんどはトラックによるものである。輸送中の振動を計測することにより実験室内での再現試験が可能となるが、振動計測の条件により、得られる振動波形が異なったものになることが報告されている。本研究では、トラックの振動を間欠計測する際のサンプリング間隔が振動特性に及ぼす影響を解析し、連続計測と同等の振動特性を得るための条件について検討した。長野から東京までモモ輸送中の20tトラックの荷台後部において輸送行程全振動を連続計測した。ここから一定間隔で振動をサンプリングし、パワースペクトル密度(PSD)解析を行った。サンプリング間隔が長い場合には連続波形とのずれが大きくなり、実際の振動を再現できないことが明らかとなった。一般道路、高速道路ではそれぞれ60秒毎に4秒および2秒以上のサンプリングを行うことによりトラックの輸送環境を再現できることがわかった。この違いは、一般道路が高速道路に比べて輸送中の路面凹凸などによる衝撃波発生の頻度が多いためと考えられた。
キーワード:トラック輸送、サンプリング間隔、衝撃、振動
異なる種類の副資材による乳牛ふん堆肥化の反応特性を調査するために、石膏ボード紙、鉛筆くず、スギの炭化物、ゼオライトを使用して堆肥化過程の材料温度、酸素消費速度、アンモニアガス濃度および堆肥化終了時に堆肥成分を検討した。各々の副資材を用いて堆肥刺した結果、全ての試験区で24時間以内に60℃以上の温度にまで上昇し、順調な堆肥化反応を示した。堆肥化過程の酸素消費速度は、ゼオライト試験区でどの試験区よりも最も高くなった。この高い酸素消費速度は、微生物による酸素消費に加えてゼオライトが有しているガス吸着作用が原因であると推測された。アンモニアガス濃度は石膏ボード紙試験区において乳牛ふんのみ試験区(対照区)の約3.6倍も高い濃度であった。アンモニアガスの吸着効果が期待されたゼオライト試験区では、実験開始から3日目まではその効果が見られたものの長期間の持続性は確認されなかった。14日間の1次発酵終了後の堆肥成分は副資材の種類により大きく影響され、とくに石膏ボード試験区は高い硫黄含有率を示した。堆肥化への副資材の適用は、副資材自体の特性を把握した上で通気量などの堆肥化条件の設定を行う必要がある。また製造された堆肥を土壌へ施用する場合は、その化学成分を把握し適切な施用量に注意する必要がある。
キーワード:堆肥化、副資材、材料温度、酸素消費速度、アンモニアガス濃度、堆肥成分
バイオガスプラントにおいては、家畜ふん尿を始めとする有機物を発酵させるが、複数の有機性廃棄物を混合発酵させることでバイオガスの生成量の増加が期待される。本研究では、家畜ふん尿と廃食油からBDFを精製する過程で生じる副生グリセリンを約55℃の高温発酵、連続式で混合発酵させるに当たって、混合割合を、4%、6%、8%、10%、12%の実験区とふん尿のみの対照区の6区を設定し、バイオガス生成量等の測定を行った。この結果、4%及び6%の混合割合でバイオガス生成量等が対照区に比べ3~5倍に増加することが確認された。
キーワード:バイオガス、BDF、副生グリセリン、混合発酵、メタン
41巻4号(2011.03)
水ストレスをかけながら、光量および光質を調節することで、常温下でのトマト苗の中長期保存が可能かどうか検討した。その結果、次のことが分かった。
水ストレスだけを強く与えた場合、生長は抑制されるが、花芽の発育に悪影響を与え、定植後に第1花房の欠落が多く見受けられた。光量をPPFD20~60µmolm-2s-1の範囲で変化させた場合、およそ20µmolm-2s-1のときに苗丈の伸長と茎径の肥大が最も抑制され、それ以上のPPFDでは抑制効果は劣った。次に、光量をPPFD20µmolm-2s-1一定とし、与える光質をLEDの光色の配合が赤:青=2:1、1:1、1:2の3通りに変えて、植物がしおれない程度に徐々に給液量を減らし、その影響を調べた。この結果、LEDの配合が赤:青=1:2であるときに生長が最も制御され、その効果は強いストレスだけをかけた場合より葉の増加や苗丈の生長量などを抑制した。
以上から、LEDの赤:青=1:2の配合比は生長抑制に有効であり、徐々に水ストレスを加えていく処理と組み合わせることにより、トマト苗を常温下で3~4週間貯蔵が可能であることを明らかにした。
キーワード:生長抑制、発光ダイオード、光質、光合成有効光量子束密度、水ストレス
温室用被覆資材の熱貫流率を測定するための装置(熱貫流率測定装置)を試作し、試運転を行い、性能確認を行った。本装置は、熱貫流率への影響の大きい大気放射を模擬するための冷却板を天井部分に取り付けてあり、その温度を変えることにより、晴天や曇天での屋外の放射伝熱を模擬できる点が特徴である。
装置の試運転により、電源投入後の装置内各部位温度の経時変化、装置内の気温分布および風速分布、熱収支などの測定を行ない、簡単な装置特性を確認した。さらに、冷却板温度を変えて、熱貫流率の試行測定を行い、本装置の妥当性を確認した。
キーワード:被覆資材、熱貫流率、保温性、測定装置、運転性能
本研究の目的は、集中型バイオガスプラントにおける、稼働状況、消化液の利用状況ならびに経済収支の調査である。プラントの原料投入量は61.3t/日であり、計画処理量に対し71%となっていた。原料の平均滞留日数は55.2日であり、設計値37日に比べ長かった。バイオガス発生量は平均2 338m3/日、メタン濃度は57.6%であり、ほぼ理論値どおりであった。発生したバイオガスは、発電機での消費量が92%を占めており、ガスボイラや余剰ガス燃焼装置での利用はわずかであった。平均発電量は3 742kWh/日であり、このうちの54%が施設内で利用され、46%が売電されていた。消化液には肥料成分が豊富に含まれており、消化液の散布面積は561ha、散布量は18 440tまで増加した。プラントの収入源はプラント利用料金、売電料金、消化液散布料金、有機性廃棄物処理料金などが大きく、経済収支はプラスで運営されていた。
キーワード:積雪寒冷地、バイオ燃料、集中型バイオガスプラント、消化液、売電、経済収支