バックナンバー要旨

54巻1号(2023.03)

  • ノート
  • 温室用風よけアタッチメントの開発と隙間換気低減効果の評価
  • 熊﨑忠・大月裕介・中西雅樹・三浦慎一

 無換気状態の温室では,隙間換気によってCO2施用の効果が低下する。本研究では,隙間換気を低減するために,既存の温室に直接取り付けることができる防風壁を開発し,これを「風よけアタッチメント」と名付けた。2棟の小規模温室を対象に,風よけアタッチメントの仕様を検討した。各温室の壁面から0.4 m離れた位置にパイプを設置し,それぞれの温室の軒先に固定具で接続して,張り出しを形成した。張り出しの側面をプラスチックネットで被覆し,これを風よけアタッチメントとした。この風よけアタッチメントを温室の側面のみに設置する試験と,側面と妻面の両方に設置する試験を行った。隙間換気量として,無換気状態の温室でCO2をトレーサーガスとしたトレーサーガス法により換気回数を測定した。温室の換気回数は,屋外風速と有意な相関があり,多くの先行研究と一致した。回帰直線の傾きの比で隙間換気低減効果を評価すると,側面と妻面の両方に風よけアタッチメントを設置した温室の隙間換気は,側面にアタッチメントを設置した温室より少なくなった。したがって,温室の側面だけでなく,妻面にも風よけアタッチメントを設置する必要があることが示された。中規模温室を対象に,風よけアタッチメントが隙間換気に及ぼす影響を評価した。その結果,側面と妻面の両方に風よけアタッチメントを設置した温室の隙間換気は,アタッチメントのない同じ温室の53.5%に減少した。

キーワード:トレーサーガス法,隙間換気,換気回数

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54巻2号(2023.06)

  • 研究論文
  • 温室内の平均日射量の測定
  • 玉城 麿・菅野颯馬・石井雅久・佐瀬勘紀・髙倉 直

 温室内の平均日射量は,温室内植物の光合成量や生産量等を検討する上で重要な因子となる。しかし,温室内の日射には温室のフレームの影や入射角等が影響し,日射量は時間的にも,平面的にも変化するため,温室内の平均日射量を求めることは容易ではない。そこで,温室内の平均日射量を最小限のセンサーで正確かつ簡単に求める方法を開発した。実験の結果,温室内にフレームの影が現れないような曇天の日に,温室内の日射透過率を測定すると,日射量が時間的に変化しても日射透過率は一定であり,温室内の平均日射量を2台の日射計で求められることが明らかになった。温室内の平均日射量の測定方法を以下に記す。まず,日射計を屋外に1台,温室内の中央付近の任意の場所に1台設置する。曇天の日の温室内外の日射量を測定し,透過率を求める。年間を通じた日射透過率について検討する場合の測定は太陽高度を考慮して数か月間隔で行えばよい。この透過率を温室外の日射量に乗ずることで,常に温室内の平均日射量が求まる。反射を考慮する場合は,反射光は散乱光であるので,もう1台の日射計を温室内の中央付近下向きに設置して測定し,その値を減ずればよい。

キーワード:日射透過率,日射計,散乱光,散乱フィルム

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  • ノート
  • 太陽熱温水器を活用した家畜用温水供給システムの検討
  • 佐藤正道

 冬季における家畜(子牛)の発育性の改善のため,太陽熱温水器と石油暖房用熱源を連結したハイブリッド型温水供給システムを試作し,子牛への温水供給効果とその経済性について検証した。調査期間中の太陽熱温水器内での上昇水温は0.9-37.2 ℃(平均21.7 ℃)であった。夕方の飼養管理時の加水と同時に家畜飲水用水槽内の水温が上昇し,35 ℃を超える日も確認され,その後,時間の経過とともに放熱により水温が低下した。実証農家である川尻牧場(山口県下関市)の出荷子牛の市場成績を比較すると,温水供給システムの導入後では導入前に比べ,出荷体重は大幅に増加し,1日当たりの増体は1 kg/頭を超えて市場の評価が向上し,42千円/頭の収益改善効果(種雄牛別でのセリ価格差)が確認でき,温水供給の有用性が示唆された。

キーワード:肉用牛子牛,温水給与,太陽熱温水器

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54巻3号(2023.09)

  • 研究論文
  • 冬季夜間の下向き赤外放射量が農業用被覆資材の熱貫流係数に与える影響
  • 大橋雄太・土屋遼太・石井雅久・林真紀夫

 近年利用されている農業用被覆資材(ガラス,農業用ポリオレフィン系フィルム(農PO),フッ素樹脂フィルム,農業用塩化ビニルフィルム(農ビ),農業用エチレン酢酸ビニル共重合フィルム(農サクビ)および農業用ポリエチレンフィルム(農ポリ))について,冬季夜間の気象条件を模した天空からの下向き赤外放射量(212–297 W m-2)を実験装置内で再現し,各条件下における熱貫流係数を算出した。以下,天空からの下向き赤外放射のことを天空放射と呼ぶこととする。本研究の天空放射条件下で熱貫流係数の範囲はガラスで5.2–5.7 W m-2-1,農POで5.5–6.4 W m-2-1,フッ素樹脂フィルムで5.6–6.4 W m-2-1,農ビで6.0–6.9 W m-2-1,農サクビで6.7–7.6 W m-2-1,農ポリで6.7–7.6 W m-2-1であった。また,天空放射量が小さいほど,熱貫流係数は増加する傾向を確認でき,各資材において,天空放射量と熱貫流係数の関係を直線で近似可能であった。よって,作成した天空放射量と熱貫流係数の関係を示す近似式を,温室の熱貫流量の計算に用いることで,天空放射条件を考慮した暖房負荷の算出が可能である。加えて,供試した各資材の長波放射吸収率もしくは透過率と各天空放射条件下における熱貫流係数を2次関数で近似することが可能であった。したがって,保温性能が未知である被覆資材について,長波放射吸収率や透過率を測定することで,異なる天空放射条件下の熱貫流係数を簡易的に推定することが可能であった。

キーワード:温室,カーボンニュートラル,施設園芸,脱炭素,暖房負荷,長波放射,伝熱,フィルム,保温

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  • 研究論文
  • バイオ炭を混合した乳牛ふんの堆肥化反応特性―国内で市販されている「もみ殻くん炭」,「竹炭」,「粒状木炭」の混合が一酸化二窒素,メタン,アンモニア排出に及ぼす影響―
  • 渡邉琴羽・宮竹史仁

 本研究の目的は,国内で市販されているバイオ炭(もみ殻くん炭・竹炭・粒状木炭)を混合した乳牛ふんの堆肥化反応特性を明らかにすることである。バイオ炭を10 %(湿潤質量ベース)混合した乳牛ふんを小型堆肥化試験装置で35日間堆肥化し,堆肥温度や微生物活性およびN2O,CH4およびNH3ガス排出を分析した。その結果,もみ殻くん炭区のNH3排出量は,対照区と比較して59.8 %抑制されたが,竹炭区では6.8 %の減少にとどまった。N2O,CH4排出量は,すべてのバイオ炭区で減少し,その中でも竹炭が高い抑制効果を示した。一方,バイオ炭区の堆肥化初期における最高温度の上昇や55 ºC以上の高温持続時間は対照区と同程度であり,かつ,微生物活性を表すCO2 排出量および有機物分解率も顕著な変化は観測されなかったことから,バイオ炭の混合は堆肥化反応の促進には影響しなかった。試験に使用したバイオ炭は,乳牛ふんの堆肥化促進には影響しないものの,バイオ炭の種類によってはNH3やN2O,CH4排出抑制に有効な資材であることが示された。

キーワード:堆肥化,バイオ炭,乳牛ふん,一酸化二窒素,メタン, アンモニア

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54巻4号(2023.12)

  • 研究論文
  • 狭間隔マイクロフォンアレイによるコナジラミ類の複数頭放飼環境下における発音位置の推定
  • 於保拓高・海老原格・若槻尚斗・水谷孝一

 コナジラミ類は,葉体背軸面に付着し,葉を脚部で加振することで,音あるいは振動が別の個体に伝わり,個体同士が音響交信(音響コミュニケーション)をする特徴的な生態があることが知られており,この音響交信が配偶行動において重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。本稿では,コナジラミ類が葉体で行う音響交信を観察するために,専用の狭間隔マイクロフォンアレイ(16ch-MA)を作製し,発音位置推定システムを構築した。発音位置の推定には,指標A(到来時間差)と指標B(到来音圧差)の2種類を比較・検証した。本システムは,指標をヒートマップ化して,これを発音位置推定とした。その結果,コナジラミ類のいる位置と,ヒートマップが示す位置が概ね一致することが確認できた。コナジラミ1頭が葉上にいる場合や,雄雌2頭がつがい(ペアリング)になっている場合,雄雌2頭が葉体の異なる位置にいる場合,などについても,発音位置が推定でき,音響交信と行動が生態モニタリング可能であった。また,10頭放飼した場合にも,発音位置を推定できた。なお,葉体の種類によって,最適な指標が異なり,実験では,キュウリ葉には指標A(到来時間差)が適し,シソ葉(大葉)には指標B(到来音圧差)が適する傾向があった。

キーワード:コナジラミ類,昆虫音響交信,マイクロフォンアレイ,音源位置推定,音響測位

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