バックナンバー要旨

52巻1号(2021.03)

  • 研究論文
  • 電気化学酸化法による食品系バイオマス中褐色成分の脱色における影響因子の解明
  • 吉田弦・李鄭学究・井原一高

 食品製造では,暗褐色の廃水のような食品系バイオマスが大量に排出される。このような食品系バイオマスを再利用する際,着色成分の除去が求められることが多いが,従来の生物学的処理では脱色は困難である。そこで生物学的処理にかわる物理化学的処理法の一種として電気化学酸化法による脱色を検討した。着色成分としてカラメルおよびメラノイジンを対象とした電気化学酸化実験を実施し,電流強度,塩化ナトリウム濃度,初期色度が脱色性能とエネルギ消費に及ぼす影響について検討を行った。電流強度の増加に伴い処理速度は大きくなり,脱色性能は向上した。一方で,電流強度の大きい条件では消費エネルギが増大した。塩化ナトリウム濃度が増加するにつれて脱色性能は向上した上,消費エネルギは減少した。したがって,塩化ナトリウム濃度の制御により消費エネルギを削減しうる脱色プロセスを構築できることが明らかになった。

キーワード:電気化学酸化法,脱色,食品系バイオマス,カラメル,メラノイジン

ページトップへ

  • ノート
  • 令和元年房総半島台風による温室の被災パターン
  • 森山英樹・石井雅久・土屋遼太

 2019年9月に関東地方を縦断した令和元年房総半島台風(台風第15号)によって,千葉県では360億円以上の温室被害が発生した。温室の配置条件が被災パターンや被災時の気流に及ぼす影響を明らかにするために,パイプハウス団地および連棟ハウスを対象に現地調査を行った。その調査結果に,既往の台風(平成26年台風第18号)に関して実施していた調査結果を補足し,並列配置されたパイプハウスおよび連棟ハウスの被災メカニズムを明らかにした。パイプハウス側面の転倒は,風上側側面に作用した正圧が原因であった可能性が高い。一方,風下棟における負圧は,骨組み構造を浮き上がらせた。同じく風下棟における屋根の陥没は,気流の再付着が原因であった。縮流による気流の増加は,局所的な破壊を発生させた。さらに,防風ネットの設置方位,パイプハウスの筋交いの追加,鉄骨ハウスの基礎の適切な埋設等,今後の台風対策の留意点を抽出することができた。

キーワード:パイプハウス,鉄骨ハウス,正圧,負圧,気流の再付着,基礎の埋設深,強風対策,2019年台風第15号,2014年台風第18号

ページトップへ

52巻2号(2021.06)

  • 研究論文
  • コナジラミ類の交信音を用いる音響放射による交尾行動の抑制
  • 西島也寸彦・水谷孝一・海老原格・若槻尚斗 ・久保田健嗣・石井雅久・宇賀博之

  配偶行動時に音響交信を行うコナジラミ類から採取・録音した交信音を再びスピーカから音響放射した結果,コナジラミ 類の交尾抑制が成功したため報告する。タバココナジラミ成虫(バイオタイプ Q1)が寄生したキュウリの葉へ録音した交信 音を複数の大きさで音響放射し,コナジラミ類の交尾行動が抑制されるか検証した。結果,振幅の実効値が 83 nm 以上の場合, 交尾行動を 90 %以上抑制することができた。

キーワード:コナジラミ類,タバココナジラミ,配偶行動,植物保護,音響交信,音響放射

ページトップへ

  • 研究論文
  • LCA手法を用いた公共下水道を利用した都市近郊酪農の家畜排せつ物処理システムの環境影響評価
  • 川村英輔・菱沼竜男

 本研究では,都市近郊酪農における公共下水道を利用したふん尿処理システムによる環境影響(地球温暖化,酸性化,富 栄養化)を比較検討するためにライフサイクルアセスメント(LCA: Life Cycle Assessment)手法を用いたシナリオ分析を行っ た。フリーストール牛舎とミルキングパーラーを利用して搾乳牛 150 頭を飼養する酪農家を想定し,ふん尿混合物とパーラー 排水を処理する 5 つのシナリオ(堆肥化処理方式,浄化処理方式,敷料製造処理方式,メタン発酵処理方式およびふん尿分 離方式)を検討した。各シナリオでの施設と設備機器の導入段階と運用段階を評価範囲とし,設定した酪農家から 1 年間で 排せつされるふん尿とパーラー排水を処理することを機能単位として評価を行った。導入段階では,浄化処理方式と敷料製 造方式の地球温暖化ガス及び酸性化ガスの発生量が最も大きく,施設および設備機械の構成がシンプルなふん尿分離方式と 比べ,2 倍となった。運用段階では,密閉された施設で処理が可能なメタン発酵処理方式は,温室効果ガス排出量が浄化処 理方式に比べ 15%削減された。また,処理水を公共下水道に投入して終末処理場で浄化処理する敷料製造処理方式とメタン 発酵処理方式で,富栄養化の影響は小さくなるなど,シナリオごとの環境影響評価の特徴が明らかとなった。

キーワード:搾乳牛,ふん尿処理,公共下水道,LCA,環境影響

ページトップへ

52巻3号(2021.09)

  • 研究論文
  • 深層学習によるコナジラミ類の微小発生音を用いた種およびバイオタイプの判別
  • 佐藤広隆・中林大樹・海老原格・水谷孝一・若槻尚斗・久保田健嗣

  コナジラミ類は,トマトやキュウリ等の施設野菜に甚大な被害をもたらす農業害虫であり,農薬耐性の異なる複数の種や バイオタイプが確認されている。コナジラミ類が発する音の周波数スペクトル(周波数毎の強度分布)から,タバココナジ ラミのバイオタイプ B と Q2 の判別が可能であることがこれまで明らかになっている。しかし,日本国内で主に確認されて いる種・バイオタイプ[オンシツコナジラミ,タバココナジラミ(バイオタイプ B,Q1,Q2)]の判別には至っていなかっ た。本研究は,コナジラミ類が発する音のスペクトログラム(時間-周波数空間における強度分布)から,日本国内で主に 確認されている種・バイオタイプを判別する方法を検討した。深層学習モデルを用いたスペクトログラムの判別器を構築し, 無響室において実験を行った結果,オンシツコナジラミ,タバココナジラミ(バイオタイプ B,Q1,Q2)を高い精度(F 値 96.8 ~ 100%,平均 98.7%)で判別することが可能であり,周波数スペクトルに着目した従来手法の精度(F 値 32.7 ~ 70.5%,平均 60.3%)と比較して改善が見られたほか,DNA による系統判別法と同程度の精度で実現しうることが確認できた。

キーワード:コナジラミ類,判別,深層学習,スペクトログラム

ページトップへ

  • 技術論文
  • 家畜ふん尿管理用バイオガスプラントにおける運用上の課題と運転状態推定のためのモニタリング指標の開発(英文)
  • 石川志保 ・岩渕和則・高橋圭二・鈴木崇司・原 亮一・北 裕幸・干場信司

 酪農学園大学バイオガスプラント(以下,BGP)の 2000 年度から 2010 年度までに発生した運用上の トラブルを解析し,安定運転のために配慮すべき事項を明らかにした。BGP では,システム本体の機械 的な故障による運用停止とソフトウェアの故障によるトラブルがあり,これらはいずれも運転開始 1 年 目でも生じることが明らかとなった。BGP 安定運転には,性状や量等の原料条件を安定させることが重 要であり,原料条件の変動は最悪の場合,BGP 運転停止に至り,複数設備の性能や機能低下を引き起こ す可能性も示された。原料の安定化対策として,BGP での処理対象をふん尿と,廃棄乳などが混入した 極めて負荷の高い雑排水のみとする運用が効果的であった。これにより,原料量の変動は 8 ~ 11 m3 / 日 の範囲で安定し,メタンガス濃度も制御前と同様の 53 %を概ね確保できることを確認した。また BGP に標準的に設置される計測情報である,メタンガス濃度(%)と BGP 動力消費量(kWh)を用いて算 出する自家消費用メタンガス量(m3 /kWh)の変動から簡便に BGP 運転状態を判断する手法を提案した。 この指標は,複数の計測情報の相互影響分析によって運転状態を推定することが可能であり,かつ,酪 農学園大学 BGP では実測データとトラブル事例データを組合せた分析からも提案指標の有効性が確認 された。

キーワード:バイオガスプラント,運用上の課題,安定性,メタンガス,自家消費,モニタリング,乳 牛ふん尿

ページトップへ

52巻4号(2021.12)

  • 研究論文
  • 論文表題:野菜残渣を基盤投入原料とした食品バイオマスの嫌気性共発酵
  • 吉田弦・井原一高

  食品産業廃棄物の中で植物性残渣の割合は高く,その中で野菜廃棄物は高い含水率と排出量の多さから,バイオガス化が望まれている。野菜廃棄物はVS濃度が低いことからメタン発酵において基盤投入原料として用いることを想定すると,ガス生成量を増加させるために副基質が必要である。そこで本研究は,食品バイオマスとの共発酵を行い基盤投入原料としての野菜残渣の可能性を検討した。野菜廃棄物のモデル物質として5種類の野菜と茹でたパスタを主基質とし,副基質としてチーズとチョコレートを用いて,バイオガスポテンシャル試験を実施した。野菜廃棄物の有機物負荷に対してチーズまたはチョコレートを60%追加したところ,バイオガス生成量は3.37 m3/m3からそれぞれ4.76 m3/m3,5.89 m3/m3へと増加した。またバイオガス収率もわずかに向上した。有機物負荷一定の条件下において,野菜廃棄物とチョコレートの混合割合の影響を調べた。野菜廃棄物のみと比較してチョコレートを20~50%混合することによって,バイオガス生成量およびバイオガス収率は増加した。これらのことから,野菜廃棄物とチーズやチョコレートは嫌気性共発酵が可能であり,野菜廃棄物は食品バイオマスのメタン発酵の基盤的投入原料として活用できることが示された。

キーワード:メタン発酵,共発酵,野菜廃棄物,基盤的投入原料

ページトップへ

  • 技術論文
  • 家畜排せつ物の堆肥化に利用される副資材のかさ密度の推定
  • 前田武己・齋藤雅貴・小島陽一郎・阿部佳之

 家畜排せつ物の堆肥化に利用される副資材について,小容積の荷重試験の沈下量からその堆積状態における質量とかさ密度を推定した。堆積高さが2 mのときの質量を推定すると,おが粉では既往値に対して約6割,籾殻では同様に約8割の値となった。豚ふん戻し堆肥では水分が異なるもののその推定質量は既往値の約2倍となり,乳牛ふん戻し堆肥で得られた値は豚ふん戻し堆肥の4割程度であった。かさ密度の値は,同じ副資材においても堆積高さが高くなるほど大きくなると推定された。この変化は籾殻が最も小さく,おが粉や乳牛ふん戻し堆肥では籾殻より大きくなり,豚ふん戻し堆肥が最も大きくなった。このため,副資材として籾殻を利用するときは堆積高さが高くなっても下部が圧縮の影響を受けにくいと考えられる。その一方で,豚ふん戻し堆肥ではもともとかさ密度が大きいことに加え,圧縮の影響を受けやすい。このため副資材として利用するときには水分調整の効果はあるものの,かさ密度の低下すなわち空隙の増加にはつながりにくいことが予測される。

キーワード:かさ密度,副資材,堆積状態,堆肥化,家畜排せつ物

ページトップへ