バックナンバー要旨

45巻1号(2014.03)

  • 研究論文
  • 豚の咳・くしゃみ監視システムに関する研究
  • 川岸卓司・松梨夏季・水谷孝一・若槻尚斗

 養豚農家において、呼吸器感染症の豚を早期に発見し、その拡散を防止することは大変重要である。現在、呼吸器感染症の検査は、各種抗体検査などで陰陽性を判別しているが、所要時間や費用を鑑みると頻繁に検査を行うことは困難である。そこで、本稿では、マイクロフォンアレイを用いて豚の咳・くしゃみ音を自動的に検出し、その発生位置を特定するシステムを提案する。提案手法を評価するため、標準サンプルに同一種の離乳期豚で湿潤状況が陰性な咳・くしゃみ音を使用し、同様の環境である豚舎にて咳・くしゃみ音の検知を行い、その発生位置の特定を行った。その結果、豚のくしゃみ音は30 kHz以上の周波数を含み、ハイパスフィルタを用いた手法により、識別率は99.9 %、位置測定率は85.7 %で特定が可能であった。また、咳音は10-20 kHzの周波数を含み、バンドパスフィルタを用いた手法により、識別率は99.6 %、位置測定率は75.0 %で特定が可能であった。これらの実験により、本手法の有効性が確認された。

キーワード:豚、モニタリングシステム、くしゃみ、呼吸器感染症、位置推定

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  • 研究論文
  • 乳牛ふん尿の灌水同時施肥を可能とする固液分離機併用型好気性ふん尿発酵
  • 山下善道・福原資雄・岩田晃一郎・佐藤達雄・荒木肇・近江谷和彦・清水直人・岩渕和則

 液状の乳牛ふん尿を市販の灌水用チューブを利用することによって圃場への灌水と施肥の両方を同時に可能とする方法を考案した。一般に家畜ふん尿には粒径の大きな固形物が混入しており、これが点滴灌水孔の目詰まりを引き起こすため、灌水チューブ利用による圃場還元は困難であった。考案した方法は、固液分離後の搾汁液に対して空気を曝気し、固形物の機械的分離と微生物分離による固形物の微細化とによって、点滴灌水孔の目詰まりを回避することが出来た。この製造されたふん尿搾汁液肥を灌水チューブにより、キュウリ栽培に適用したところ、目詰まりはなく、栽培も良好に行われた。

キーワード:家畜排せつ物管理、固液分離、灌水同時施肥、好気性発酵、スクリュープレス

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  • 技術論文
  • ナタネ油の燃料利用がディーゼルエンジンへ与える影響-発電機による1500時間運転試験-
  • 金井源太・澁谷幸憲・小綿寿志

 生産量の増加が見込まれるナタネについて、選別残渣など低品質粒の利用方法の多様化の一環として無変換ナタネ油の燃料利用を検討した。市販の改造キットを小型ディーゼル発電機に取付け、ナタネ油供試にて1 250時間、比較試験のための軽油供試にて250時間の合計1 500時間の運転試験を行い、以下の知見を得た。
 エンジンオイル分析によるとエンジンへの重大なダメージは認められず、運転状態にも異常は認められなかった。ナタネ油供試運転時にエンジンの不調が発生したが、フィルタ類の整備不良によると考えられた。自家生産のナタネ油は、工業製品である軽油よりも塵や水分が混入しやすいと推察され、フィルタ類の整備の重要性が高いと考えられる。不調対応のために整備技能の習熟とともにトラブル発生にも留意した利用が必要である。
 ナタネ油供試時の燃料消費量(L/h)は軽油供試時より、一定負荷で6~13 %、変動負荷で8 %程度多かった。燃料の発熱量がナタネ油の方が少ないためと考えられる。エンジンオイル中のすす量はナタネ油の方が少なかった。
 1 250時間の発電機利用時間は、試算例として栽培面積2 ha分のナタネの乾燥から精油までの電源利用を想定すると農業用設備の法定耐用年数7年とほぼ同等である。

キーワード:ディーゼルエンジン、ナタネ油、SVO、連用試験

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45巻2号(2014.06)

  • 研究論文
  • ヒートポンプを利用した温室冷房システムの日本における運転性能の算出
  • 奥島里美・ディビット R. ミアーズ・佐瀬勘紀・髙倉直・森山英樹・古野伸典・石井雅久

 空気熱源-冷風供給型(A-A)、水熱源-冷風供給型(W-A)、水熱源-冷水供給型(W-W)のヒートポンプを用いた3種類の温室冷房システムについて簡単な熱収支モデルに基づく毎時計算により、日本における冷房運転性能を評価した。国内の4地点において4種の代表的な温室規模について計算を行った。設定気温の異なる2つの終日冷房および2つの夜間冷房条件を想定し、冷房負荷を求めた。昼間の最大冷房負荷はどの地点、どの温室規模でも同じような値を示したが、その量は大きすぎて換気せずにヒートポンプシステムだけで冷房するには困難な量であった。終日冷房負荷の半分程度をヒートポンプシステムで供給する程度が現実的と考えられた。この場合W-Wシステムでは冷水槽が有効に機能して、必要なヒートポンプ能力はA-AやW-Aヒートポンプのわずが1/6で済む。夜間冷房の場合は、暖房負荷量の90 %を供給する能力のヒートポンプなら、ほぼ完全に夜間冷房に対応することができた。また、ヒートポンプを利用した冷房システムにより、巨大なヒートポンプ能力でなくても温室を閉鎖してCO2施用できる時間数を延長できる可能性を示した。

キーワード:ヒートポンプ、水熱源、空気熱源、温室、冷房負荷、蓄熱水槽、熱交換器

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  • 研究論文
  • エネルギーの安定的供給を目的としたバイオガス発電施設併設型畜舎における需要電力の平準化
  • 石川志保・岩渕和則・高野準・松田從三

 畜舎にバイオガス発電施設が併設されているケースにおいて、バイオガス発電のみで家畜および畜舎管理に必要な電力を賄うエネルギー自給を行い、可能な限り多くの余剰電力を他へ供給(売電)するエネルギー自給・供給型畜舎の構築を検討した。
 酪農家の1日あたりの消費電力割合は、「換気扇」が37~76 %(平均41 %)と最も多く、次いで「バルククーラ」が4~37 %(平均20 %)であった。農場の消費電力は、各機器の定格消費電力の大きさよりも長時間に渡って使用する機器の影響が大きかった。したがって長時間使用する機器のうち、稼働が必ずしも厳格に求められていない機器の運用方法の見直しが、総消費電力および最大需要電力の低減に繋がると考えられた。また、設備容量の小さい換気扇やふん尿処理機器などを搾乳時間帯に同時使用しないことによって最大需要電力を抑えられた。
 バイオガス発電施設の発電量は1日をとおして安定しており、バイオガス発電施設の需要電力を賄うことはほとんど可能である。バイオガス発電施設併設型畜舎においても、搾乳時における稼働が必ずしも厳格に求められない機器の運用方法が、農場全体の需要電力をバイオガス発電で自給するうえでも重要であった。

キーワード:酪農、バイオガス発電、エネルギー自給・供給型畜舎、需要電力、負荷平準化、最大需要電力

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45巻3号(2014.09)

  • 技術論文
  • 吸引通気式堆肥化施設で回収した発酵熱による水の加温-加温特性と実規模施設における乳牛への温水供給-
  • 小島陽一郎・阿部佳之・天羽弘一

 本研究では、堆肥化過程で発生する発酵熱を、吸引通気式堆肥化システムにより30 kW程度の熱量を持つ排気として回収し、プレートフィン型熱交換器を用いた水の加温特性(実験1)および、実際の酪農家において温水を乳牛へ飲水供給する場合の温水供給能力(実験2)について検討した。その結果、実験1では、1~14 L∙min-1の通水量において、得られる温水温度は48.3~31.0℃で、水の加温に利用された熱量は、最大で1.41 MJ∙min-1であった。このとき熱交換効率は90 %程度であり、総括伝熱係数は、5 L∙min-1以上の通水量では、80~90 W∙m-2∙K-1で安定した。実験2では、実験1と同じ熱交換器を用いて得られた温水を、118頭規模の乳牛群の飲水として供給するシステムを構築し、平均33.3℃の温水、14.4 m3∙d-1(乳牛1頭あたり122 L∙d-1)が供給できた。このとき、水の加温に利用された熱量は、1630 MJ∙d-1であった。また、本熱回収システムの運用には、熱交換過程で発生する結露水の処理・利用方法の検討が必要であることが明らかになった。

キーワード:家畜ふん、堆肥化、発酵熱、熱回収、飲水給与、バイオマスエネルギー

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  • 技術論文
  • 平成26年豪雪により被災した温室の実態調査
  • 森山英樹・奥島里美・石井雅久

 2014年2月の大雪によって、関東甲信地方を中心に農業施設に甚大な被害が生じた。群馬県、長野県、山梨県および栃木県の地中押し込み式パイプハウス、鉄骨補強パイプハウス、アングルハウス、鉄骨ハウス、ガラス室および果樹用ハウスを現地調査し、破壊モードおよび被災要因を分類した。単棟温室ではばたつき防止用ネット等が屋根上積雪の滑落を阻害した。連棟型温室では谷に集中した積雪荷重に対する融雪不足が骨組構造の破壊を生じ、谷樋からの超流水が基礎の沈下をもたらした。強風や隣棟間の古い残雪が荷重条件に影響を及ぼした。筋交の不足による柱の転倒が多数あった。その場合、柱梁接合部および柱基礎接合部の破壊が生じた。柱梁接合部には回転を充分に抑制できない仕様のものも多く、柱基礎接合部に力が集中した。現状の問題点に対して、筋交着脱金具の開発、コンクリートを使用した柱基礎接合部の改良、谷樋周辺の被覆材展張方法の改善等の降雪対策を提案した。

キーワード:2014年2月、関東甲信地方、温室構造、積雪荷重、気象災害、破壊モード

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45巻4号(2014.12)

  • 研究論文
  • 消化液を用いた脱硫装置の混合酸素濃度、温度およびpHの影響
  • 鈴木崇司・干場信司・小川人士・高崎宏寿・岡本英竜・森田茂

 バイオガスを利用する際には、経済的で効率良い脱硫が求められる。しかし、消化液を利用した脱硫装置における効率よい脱硫を行うための運転・環境条件の検討は十分になされていない。本報では、小型実験装置を用いた脱硫試験を行い、脱硫効率に及ぼす混合酸素濃度、装置温度、消化液pHの影響を検討した。
 反応筒には0.24 m3の塩化ビニル製の円筒を用い、内部に接触材を充填した。接触材の表面には、装置上部から消化液を1日1回5分程度噴射して運転を行った。
 目標の脱硫率85 %以上を達成するためには、混合酸素量は、1.0 %以上にする必要がある。しかし、バイオガスを希釈することになるため、1.0 %に抑えることが重要である。装置温度は、約20℃以上で保つことが求められ、脱硫装置を発酵槽に近い位置に設置するか、発酵槽を加温するのと同じように発電時の熱で作られた温水を脱硫装置にも適用することが必要である。消化液pHは、7.0以上で運転することが求められ、定期的に一部の液を交換する運転方法が望ましいと考えられる。

キーワード:脱硫、バイオガス、消化液、混合酸素濃度、装置温度、pH

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  • 研究論文
  • 歩行周期に基づく次数可変適応フィルタを用いる家畜の動的体重計測
  • 青木伸夫・水谷孝一・若槻尚斗・梅津一孝

 畜産農家において、家畜の体重を管理することは、飼養方法を選択する上で重要な指標である。特に、家畜用の牛は乳用牛・肉用牛いずれにおいてもその体重を知ることは収益に密接につながるものである。従来は、柵・檻などを用いて強制的に静止状態を作り出し静的な状態での軽量を行っていた。本論文では、牛の歩行周期に基づき、フィルタ次数を計量ごとに変える動的計測方式を提案する。牛がはかり上を歩行した場合、計測信号が整定することが期待できないとともに、重心の上下動に伴う外乱信号を含む。牛が一定速度で歩行した場合に生じる周期性から、計測ごとにフィルタの次数と係数の最適化を図り、この外乱信号を除外した。従来の単純平均による処理では、静止時体重と歩行時体重で±5 kgの差があったものが、この次数可変の適応フィルタにより±1 kgの差に収まった。乳用牛に対する歩行計測での実験結果で、実用上十分な精度が得られることを確認した。

キーワード:牛、体重、歩行、適応フィルタ、動的計測

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